大判例

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東京地方裁判所 平成2年(ワ)16763号 判決

千葉県松戸市常盤平六丁目一一番地の一〇

原告

エクセル株式会社

右代表者代表取締役

中川達彌

右訴訟代理人弁護士

武田正彦

阿部昭吾

井窪保彦

田口和幸

右輔佐人弁理士

小橋正明

千葉県野田市目吹二五五二番地

被告

三豊樹脂株式会社

右代表者代表取締役

田中茂治

右訴訟代理人弁護士

小坂志磨夫

小池豊

森田政明

右輔佐人弁理士

山田正國

主文

一  被告は、原告に対し金三八万一二九八円及びこれに対する平成三年一一月一六日から支払済みに至るまで、年五分の割合による金員を支払え。

二  原告のその余の請求を棄却する。

三  訴訟費用はこれを一〇分し、その一を被告の負担とし、その余を原告の負担とする。

四  この判決は、第一項に限り仮に執行することができる。

事実

第一  当事者の求めた裁判

一  請求の趣旨

1  被告は、原告に対し金一三八四万九〇〇〇円及び内金一二六七万九〇〇〇円に対する平成三年一月二五日から、内金一一七万円に対する同年一一月一六日から、各支払済みに至るまで年五分の割合による金員を支払え。

2  訴訟費用は被告の負担とする。

3  仮執行宣言

二  請求の趣旨に対する答弁

1  原告の請求を棄却する。

2  訴訟費用は原告の負担とする。

第二  請求原因

一  当事者

原告は、合成樹脂製品の製造、販売及び同製品の加工機械の販売等を業とする会社であり、被告は合成樹脂製品の製造、販売等を業とする会社である。

二  原告の実用新案権

原告は、次の実用新案権(以下「本件実用新案権」といい、その考案を「本件考案」という。)を有していた。

考案の名称 剛性の薄肉プラスチック管

出願日 昭和五一年一一月一六日

出願公告日 昭和六〇年八月一六日

登録日 昭和六一年九月二九日

登録番号 第一六五三八三九号

なお、本件実用新案権は、平成三年一一月一六日、存続期間満了により消滅した。

三  実用新案登録請求の範囲

本件実用新案権の実用新案登録請求の範囲は、本判決添付の実用新案公報(以下「本件公報」という。)写しの実用新案登録請求の範囲の項記載のとおりである。

四  本件考案の構成要件

本件考案は、次のとおりの構成要件からなる。

A  ダクト管路用プラスチック管であること。

B  薄肉プラスチック管であること。

C  三次元的に中心軸が変化する所定の管路形状を有していること。

D  パリソンは、剛性熱可塑性樹脂からなること。

E  同一のパリソンから一体的に構成されていること。

五  本件考案の作用効果

本件考案は、三次元的に折曲した形状を有するダクト管路用薄肉プラスチック管に関するものであるが、かかる形状を有する管の素材としては従来ゴムが多く用いられていたところ、ゴム製の管は機能及びその取付作業の容易性の面では優れているが製造コストが著しく高いため、これに代わるものとしてコストの低いポリエチレン、ポリプロピレン等の硬質熱可塑性樹脂を用いることがひろく行われるようになった。しかしながら、硬質熱可塑性樹脂を素材として使用するときには、所望の形状の管に成形するためには多くの場合、各種形状の継手を必要とするのみならず、継手部分で空気漏れが生じ、あるいは取付作業が困難である等の不都合が生じやすかった。

本件考案は、前記の構成要件により、従来技術におけるプラスチック管に存した問題点を解決し、継手を使用せず一体成形された所望の三次元形状のプラスチック管を提供することに成功したものであり、この点に新規な技術的特徴を有するものである。

六  被告製品の製造販売

被告は、昭和六二年三月頃から平成三年一月二五日までの間、別紙イ号物件目録記載の各物件(以下「イ号物件」といい各物件を順次「イ号物件1ないし6」という。)を、平成二年一月から平成三年一一月一六日までの間、別紙ロ号物件目録記載の物件(以下「ロ号物件」という。なお、イ号物件とロ号物件をあわせて以下「被告製品」という。)を製造、販売していた。

七  本件考案と被告製品の対比

1  構成要件Aについて

(一) 被告製品中、イ号物件1、3及び5並びにロ号物件はダクト管路用プラスチック管であり、イ号物件2、4及び6はレゾネータ(消音装置)であり、それぞれイ号物件目録添付の各物件の図面及び写真並びにロ号物件目録添付の図面及び写真に示した管の構造と外観を有しており、いずれも本件考案の構成要件Aを充足する。

すなわち、「ダクト」とは、一般に、流体用の通路または導管を意味するが、流体用の通路といっても、流体が通り抜けられること、すなわち管の両端が開放されていることまでは必要でなく、一端部が閉じていても、その中を流体が流れるものである限り、それも「ダクト」に含まれるものと解すべきであるから、レゾネータであるイ号物件2、4及び6も、流体の通路を形成していることに変わりはないから、構成要件Aを充足する。

2  構成要件Bについて

(一) 被告製品は、次のとおり、イ号物件が一・〇ミリメートルから三・五ミリメートルの範囲の肉厚を有し、ロ号物件が一・五ミリメートルの肉厚を有するプラスチック管であり、いずれも本件考案の構成要件Bを充足する(なお、ブロー成形では肉厚のむらが生じるため、各製品の図面に指定された基本肉厚をもって標準的な肉厚とする。)。

〈1〉 イ号物件1 肉厚 二・五、三・〇及び二・〇ミリメートル

〈2〉 イ号物件2 肉厚 二・〇±一・〇ミリメートル

〈3〉 イ号物件3 肉厚 三・五±一・〇ミリメートル及び三・〇±一・〇ミリメートル

〈4〉 イ号物件4 肉厚 二・〇+一・〇一〇・八ミリメートル

〈5〉 イ号物件5 肉厚 二・〇ミリメートル

〈6〉 イ号物件6 肉厚 二・〇ミリメートル

〈7〉 ロ号物件 肉厚 一・五ミリメートル

すなわち、右被告製品の肉厚の程度が、一般的な語意に照らして、「薄肉」に該当するものであることはもちろんである。また、本件実用新案権の願書に添付した明細書(以下「本件明細書」という。)の考案の詳細な説明の項には「一般に換気装置や冷房装置等における低温低圧下の送気ダクトに用いる配管用パイプは、装置取付個所の条件が個別的に異なるため従来は、できれば変形性(可撓性)に富むゴム製のものが望ましく、またそれに乏しい材料のものでは汎用性のある各種形状の管継手を揃えて取付個所に応じた配管をするのが常である。しかし、ゴム製のものはその機能及び取付作業の面でも優れているが、製造コストが著しく高いため我国ではコストの低いポリエチレン、ポリプロピレン等からなる硬質熱可塑性樹脂で薄肉管として成形することが多いが、この場合前述するように各種形状のエルボ等の継手を必要とするのみならず、複雑な形状部分における多くの継手部分で空気漏れが生じたり、取付作業の工数がかかる等の不都合があり、これらを防止しようとすればコスト的にも高くならざるを得ない等の欠点があった。」(本件公報一欄一二行から二九行。なお、本件公報には「可遡性」とあるが、右が「可塑性」の誤記であることは明らかであるので、以下、公報等の記載にかかわらず「可遡性」は「可塑性」と表記する。)との記載があり、従来技術に関し、ゴム製のものは変形性があるため取付箇所の条件に応じて曲げることができるが、それに乏しい硬質熱可塑性樹脂のものは継手を使って配管しなければならないため空気漏れが生じる等の不都合があったとの趣旨が述べられており、「薄肉」及び「硬質」の語をゴム製と比較するうえで用いていることが明らかである。要するに本件考案における「薄肉」なる語は、本件実用新案権の出願当時、当該技術分野において一般的に用いられていたゴム製のダクトと比較して薄肉であること、すなわちゴム製品と比較したプラスチック管の一般的な性状を示す意味に用いられているものと解される。

そして、プラスチック管はゴム管に比べて、一般に「薄肉」であることは、各種のプラスチック管とゴム管を比較した試験でも確かめられている。

したがって、右被告製品の肉厚の程度はいずれも本件考案の構成要件Bにいう「薄肉」の要件を充足する。

(二) 本件明細書の考案の詳細な説明の項中には「換気装置や冷房装置等における低温低圧下の送気ダクトに用いる配管用パイプ」(本件公報一欄一二、一三行)、「自動車用冷房装置のダクト」(同二欄三、四行)、「自動車用冷房装置の通風ダクト」(同五欄一四行)等の記載があるけれども、右各記載は、本件考案の対象たるダクト管路用薄肉プラスチック管の用途を例示したものにすぎないのであるから、本件考案の対象を被告主張のようなエンジンルームに用いられるダクトと区別される「低温低圧下の送気ダクトに用いる配管用パイプ」に限定する根拠となるものではない。

3  構成要件Cについて

(一)(1) 被告製品は、イ号物件目録添付の各物件の図面及び写真並びにロ号物件目録添付の図面及び写真にそれぞれ明らかなとおり、いずれもその中心軸が三次元的に折曲変形した形状を有しており、いずれも本件考案の構成要件Cを充足する。

(2) すなわち、本件考案の構成要件Cの「三次元的に中心軸が変化する所定の管路形状を有していること」とは、管路の中心軸が三次元的に変化すること、すなわち管路中心軸がX、Y、Zの互いに直交する軸方向のすべてに変化する成分を有することを意味すると解すべきところ、被告製品はいずれもそのような形状を有している。

(二) 構成要件Cの意味が右(一)(2)のとおりであることは、以下の理由から明らかである。

(1) 本件考案の実用新案登録請求の範囲の記載について

一般に「変化する」という語は、現に変化している(動いている)ことを示す意味にも、変化することが可能であることを示す意味にも、また「変化した」あるいは「変化している」状態を示す意味(たとえば「複雑に変化する海岸線」という表現)にも用いられる語である。

しかしながら、本件考案においては、実用新案登録請求の範囲において該プラスチック管が「剛性熱可塑性合成樹脂」からなることが要件とされており、材料が「剛性」でありながら折り曲げが自由にできるということはあり得ないことからすれば、「剛性」であり、かつ、「三次元的に中心軸が変化する所定の管路形状を有する」ということは、すなわち該管自体の形状が立体的に折曲しているということを意味しているものとしか解することはできない。

したがって、構成要件Cにいう「変化する」とは、「変化できる」の意味ではなく、「変化している」あるいは「変化した」という前記した管路中心軸がX、Y、Zの互いに直交する軸方向のすべてに変化する成分を有する形状を意味していることは明らかである。

なお、蛇腹部を設けるなど特段の方法を講じることにより、剛性の材料を用いつつ「変化できる」、すなわち自由に折り曲げができるような構成を得ることはできるが、そのような特別な方法を講じることが必要なのであれば、その構成が実用新案登録請求の範囲に記載されていなければならない。そのような記載がない以上、「変化する」という語を、右のような特別の方法を講じられることを前提にして解することはできない。

また、「所定の管路形状」という場合の「所定の」とは、「予め定まった」とか「特定の」ということを意味するのであるから、この語の通常の意味からも「三次元的に中心軸が変化する所定の管路形状」なる記載は、管自体がそのような特定の形状をしているという意味に解するのが当然である。

(2) 本件考案の出願経過について

本件考案の構成要件Cを、右のように解すべきことは、本件実用新案権の出願経過に照らしても明らかである。すなわち、

〈1〉 本件考案の実用新案登録請求の範囲の項の記載は、本件実用新案権の願書に添付した当初の明細書(以下「出願当初明細書」という。)においては、「配管個所の条件に応じて立体的に折曲した形状に成形し、任意な個所に成形後においても折曲自在な蛇腹部(17a)を設けた熱可塑性剛性樹脂材よりなる薄肉プラスチック管。」とあり、管自体が立体的に折曲していることと、折曲自在な蛇腹部を有することが並列的な要件とされていた。

〈2〉 この記載は、昭和五三年七月一七日付けの手続補正書による補正にょり、「硬質熱可塑性樹脂材よりなり、適数の折曲部によって立体的に形成され、適宜個所に蛇腹部(17a)と肉厚変化部を有する剛性の薄肉プラスチック管。」と補正されたが、やはり右の並列的な要件は維持された。

〈3〉 昭和五六年五月八日付け手続補正書による補正により、実用新案登録請求の範囲は、「・・に於いて、前記プラスチック管を熱可塑性剛性樹脂材から構成し、前記所定の管路形状は予め定まった少なくとも二方向に変化する異方向部分を有し、所望により適宜箇所に蛇腹部を設けたダクト管路用薄肉プラスチック管」と補正され、その結果、折曲自在な蛇腹部を有することは、必須の要件からはずされ、所望事項とされるに至った。

なお、同日付けで提出された審判理由補充書には、「本願考案のプラスチック管は、予め定まった少なくとも二方向に変化する異方向部分を有するものであって、プラスチック管自体が既に予め決められた複雑形状を有するものである・・・ただ、本願考案においても、複雑形状を有するプラスチック管を冷房装置等に取り付ける場合には、管に多少の屈曲性があることが便利であるから、所望により適当箇所に蛇腹部を設けるものである。」として、管自体が立体的に折曲した複雑形状を有することが本件考案の本質であるが、取付時の利便性を考慮して蛇腹部を設けることを所望事項とした旨が明記されている。

〈4〉 さらに、原告は、昭和五九年九月二六日付けの手続補正書により、実用新案登録請求の範囲の記載を「ダクト管路用薄肉プラスチック管において、前記プラスチック管は三次元的に中心軸が変化する所定の管路形状を有しており且つ剛性熱可塑性樹脂から一体的に構成されており、所望により適宜箇所に蛇腹部を設けたダクト管路用薄肉プラスチック管」と補正したが、この記載中、「前記プラスチック管は三次元的に中心軸が変化する所定の管路形状を有しており・・・」との記載は、本件考案の実用新案登録請求の範囲にそのまま維持されている。

したがって、この記載と後段の「所望により適宜箇所に蛇腹部を設けた」なる記載を対比すれば、「三次元的に中心軸が変化する」とは、管自体が立体的に折曲していること、すなわち変化していることを意味するものであることは明らかである。

〈5〉 その後、原告は、昭和六〇年四月三〇日付け手続補正書により、蛇腹部を設けることを所望事項から外し、現在の本件考案の実用新案登録請求の範囲記載のとおり補正した。

以上の出願経過を要約すれば、本件考案は、出願当初明細書では管自体が折曲されていること及び自在な折曲を可能とする蛇腹部を設けることが並列的な必須要件とされていたが、補正により、右の並列的な要件のうち、後者が所望事項とされ、さらに補正され、最終的には右要件は所望事項からもはずされ、結局、前者のみが必須の要件として残ったものである。

このような出願の経過に鑑みれば、実用新案登録請求の範囲の記載にある「中心軸が三次元的に変化する所定の管路形状」とは、管自体が立体的に折曲されていることを意味することは明らかである。

また、本件考案の本質が、管自体が立体的に折曲したプラスチック管を提供することにあり、蛇腹部は取付時の便宜のためのものにすぎないことは、前記〈3〉のとおり、出願経過中、出願人である原告が審判官に明示しているところであって、出願人である原告も、審判官においても、本件考案が、管自体が立体的に折曲していることを、すなわち「変化する」とは、そのような形状に「変化した」状態を示す意味であることを、十分に理解したうえで、本件考案は出願公告され登録されるに至ったものである。

(3) 考案の詳細な説明の項の記載について

以上に述べたことは、本件明細書の考案の詳細な説明の項の記載を考慮することによっても明らかとなる。すなわち、

〈1〉 本件明細書には、本件考案の目的として、「本件考案は剛性の薄肉プラスチック管に関するもので、特に立体的に折曲した形状のもので熱可塑性樹脂のものを提供することを目的としている。」(本件公報一欄八行から一一行)なる記載がある。

この記載は、「中心軸が三次元的に変化する所定の管路形状」なる実用新案登録請求の範囲の記載を、管自体が立体的に折曲している意味に解釈すべきことを明らかにしている。

〈2〉 本件明細書には、本件考案の技術的課題(本件公報一欄一二行から二欄二八行)として、まず、送気ダクトに用いる配管用パイプについて「装置取付個所の条件が個別的に異なる」(同欄一二、一三行)ことが技術的な問題点として挙げられている。

これは後述するように、ダクトはエンジンルーム内部や運転席回りなどの狭い空間内を、他の部品の間をぬうようにして、あるいは他の部品の形状に合わせて配管されなければならないため、個々の取付個所の条件に応じた形状のもの(立体的に折曲した複雑形状のもの)であることが要求されるという意味である。

そして右記載に続いて、従来技術として、まずゴム製のパイプを取り上げ、取付個所の条件に応じられるという点では「変形性(可撓性)に富むゴム製のものが望ましく」(本件公報一欄一五、一六行)、しかも「機能及び取付作業の面でも優れているが、製造コストが著しく高いため我国ではコストの低いポリエチレン、ポリプロピレン等からなる硬質熱可塑性樹脂で薄肉管として成形することが多い」(同欄一九行から二三行)と記載され、次にコスト面から我が国で使われることが多いとされる「硬質熱可塑性樹脂」に説明が移り、これを用いた際の問題点について、硬質熱可塑性樹脂は、ゴムのような変形性(可撓性)に乏しいため、これをダクト用配管として取付個所の条件に応じた複雑な形状のものにするには、「各種形状のエルボ等の継手を必要とするのみならず、複雑な形状部分における多くの継手部分で空気漏れが生じたり、取付作業の工数がかかるなどの不都合があり、これらを防止しようとすればコスト的にも高くならざるを得ない等の欠点があった。」(同欄二四行から二九行)との問題点が存在したことが記載されている。

さらに本件明細書は、これに続けて「上記問題の原因は主にプラスチック管の製造技術から制約されるもので」(本件公報二欄一、二行)あるとして、従来のプラスチック管の製造方法とその問題点について説明し、結論として「この点(注、バリの切除)の材料の無駄や労力の損失、技術上の難点も無視できないが、何よりも先ず、この方法では平面的折曲した形状しかできず、立体的すなわち、左右上下前後方向に曲折した形状を得ることは無理であった。」(同欄一九行から二三行)と結論づけている。

以上のとおり、本件明細書の詳細な説明の項には、硬質熱可塑性樹脂で成形されたダクトの問題点として、製造技術上の制約から立体的に折曲した複雑形状のものを製造することができないため、継手を使用して複雑な形状の管を組み立てる方法によらざるをえないが、その場合、継手部分から空気が漏れたり作業に手間がかかる等の問題点があったことが説明されている。

これらの技術的課題の記載に照らせば、本件考案にかかるプラスチック管は、このような従来のプラスチック製ダクトに存した問題点を解決すべく、複雑形状の管を継手を使用せずに一体成形したものであると理解され、したがって実用新案登録請求の範囲の「前記プラスチック管は三次元的に中心軸が変化する所定の管路形状を有しており且つ剛性熱可塑性樹脂からなる同一のパリソンから一体的に構成された」なる記載は、前記原告主張のとおり解すべきことが明らかになる。

〈3〉 なお、考案の詳細な説明の項の記載には、「三次元的に中心軸が変化する所定の管路形状」という文言の意味を直接に説明した記載として、前記〈1〉のほか、「金型3の合わせ図は図示するように所望の溝形状の曲がり(即ち成形しようとするプラスチック管の三次元的に変形している曲線)に合わせて前後、左右、上下方向に曲線をなしているとともに・・・」(本件公報三欄二七行から三一行)という記載がある。

この記載からも、本件考案の実用新案登録請求の範囲にいう「三次元的に中心軸が変化する所定の管路形状」は管自体が三次元的に変形していることを意味するものであることは明らかである。

なお、本件明細書の考案の詳細な説明の項には、前記〈1〉と右記載のほか、「三次元的に中心軸が変化する所定の管路形状」という文言の意味を直接に説明した記載は存しないが、本件明細書中において、蛇腹部より屈曲自在であることを示すときは、イ「またエルボ等の一部に蛇腹を設けて折曲がり自在な形状を得ることも、バリ16を切除しなければならない関係で技術的にもコスト的にも困難で不可能である結果、従来は立体的に折曲変形し且つ取付時に折曲げできる管は存在しなかった。」(本件公報二欄二三行から二八行)、ロ「その間に折曲げ自在な蛇腹部17aが斜めの立上り部として形成されている。」(同三欄八、九行)、ハ「前後の立上り部と底辺部にそれぞれ折曲自在な蛇腹部17aが介設されている。」(同欄一三行から一四行)と、「折曲がり自在」、「折曲げできる」、「折曲げ自在」あるいは「折曲自在」との表現が用いられ、実用新案登録請求の範囲にある「三次元的に・・・変化する」という表現と明らかに区別されている。この点においても、「三次元的に中心軸が変化する」なる要件が、蛇腹部により折曲自在であることを含まないものであるとの解釈が正当であることが裏付けられている。

〈4〉 また、本件考案の実施例についての説明(本件公報三欄二行から五欄八行)とともに第3図及び第4図に、二種類のプラスチック管が示されている(本件公報四頁)が、このいずれの実施例も、プラスチック管が管自体として立体的に折曲した形状のものである(第4図のプラスチック管が立体的に折曲した形状であることは図から明らかであるし、第3図のプラスチック管も、その成形に用いる第5図の装置について、本文中に「金型3の合わせ面は図示するように所望の溝形状の曲がり(即ち成形しようとするプラスチック管の三次元的に変形している曲線)に合わせて前後、左右、上下方向に曲線をなしている」と説明されていることから、立体的に折曲した形状のものであることは明らかである。)。

これらの実施例に示されたプラスチック管が、明らかに管自体が立体的に折曲した形状のものであることは、「中心軸が三次元的に変化する所定の管路形状」が管自体が立体的に折曲していることの意味であることを裏付けている。

なお、実施例のプラスチック管には蛇腹が設けられているが、これは実際の製品では取付作業を容易にしたり振動を吸収するために、蛇腹がある方が一般に望ましいからにほかならない。もとより、蛇腹部の如何にかかわらず、実施例のプラスチック管はそれ自体として立体的に折曲した形状を有しているのであるから、実施例における蛇腹の存在が本件考案の実用新案登録請求の範囲を前記のとおり解釈することの妨げにはならない。

(三) 被告は、構成要件Cにいう「変化する」とは「変化できる」の意味であり、したがって蛇腹により折り曲げ自在であることが本件考案に必須の要件である旨主張するが、その主張は次のとおり失当である。

(1) 本件明細書に、本件考案の目的が、「本考案は剛性の薄肉プラスチック管に関するもので、特に立体的に折曲した形状のもので熱可塑性樹脂製のものを提供することを目的としている。」と記載されていることは前記のとおりである。被告は、原告が特許庁に提出した手続補正書には次の( )書きで示す部分を削除する補正がなされていないから、右の部分は本来、「本考案は剛性の薄肉プラスチック管に関するもので、特に立体的に折曲した形状のもので(その途中で折曲げが自由な)熱可塑性樹脂製のものを提供することを目的としている。」と記載されているものと扱わなければならないとし、これを理由に、実用新案登録請求の範囲の記載にある「三次元的に中心軸が変化する」とは、蛇腹により折り曲げ自在であることの意味に解釈すべきであると主張する。

しかし、前述した実用新案登録請求の範囲の記載に関する補正の経緯に明らかなとおり、本件考案は、当初は管自体が立体的に折曲していること及び自在な折曲を可能にする蛇腹部を設けることを並列的な要件としていたが、補正により後者の要件が削除されて前者のみを必須の要件とするに至ったものであり、本件明細書の考案の詳細な説明の項で「その途中で折曲げが自由な」との文言が削除されているのも、実用新案登録請求の範囲を前記のように補正し、管自体が立体的に折曲していることのみを要件としたこと、すなわち蛇腹の存在を要件から削除したことと完全に符合するものである。

のみならず、前掲した考案の詳細な説明の項の各記載内容に照らして、実用新案登録請求の範囲にある「変化する」を被告主張のように蛇腹付きの意味に限定して解釈する理由のないことは明らかである。

このような場合に、考案の詳細な説明の項における一部の記載に関する補正の成否をことさらに取り上げて、考案の技術的範囲を狭く解釈しようとするのは誤りである。

本件において検討されるべきは、本件明細書の考案の詳細な説明の項の特定の記載に関する補正の効力如何などではなく、実用新案登録請求の範囲にある「三次元的に中心軸が変化する所定の管路形状」の意味をどのように解釈するかである。

手続補正書の提出の有無は単なる手続上の問題にすぎないのであるから、本件考案の技術的範囲を解釈するにあたって、そのような事情に決定的な意味を持たせることは不当である。

被告は、「その途中で折曲げが自由な」なる文言が削除されたのは、単なる審査官あるいは審判官の過誤によるものであると主張するが、そのような過誤が何の理由もなく偶然に生じたとみるのはあまりにも常識に反する。実用新案登録請求の範囲の記載の補正に際して、原告の出願代理人は審判官と面談し、蛇腹のないプラスチック管のサンプルを示して蛇腹を設けることは本件考案の必須要件でない旨を説明したところ、審判官もこれを了解して拒絶理由通知書を発したものであり、これに明らかなように、審判官も蛇腹部を設けることは本件考案の必須要件ではないという理解で一致していたのであり、被告の主張に理由がないことは明らかである。

なお、この問題については、被告の関連会社である株式会社ミトヨが本件実用新案権について無効審判を請求し、その中で、本件と同様の主張を行ったところ、特許庁は審決において「本件明細書の記載を参酌すれば、被請求人が主張するように前記構成要件は『左右、上下、前後方向(立体的)に曲折した形状』を意味し、折り曲げできることをも意味するものではない」と判示し、この判断については東京高等裁判所の同審決の取消訴訟においても維持され、同判決は確定しているのであるから、特許庁においては既に決着済みの問題である。

(2) また、被告は、本件明細書の考案の詳細な説明の項に「従来は立体的に折曲変形し且つ取付時に折曲げできる管は存在しなかった」との記載がある(本件公報二欄二七、二八行)ことを理由に、蛇腹部の存在が本件考案の必須構成要件であると主張する。しかし、前述のとおり、本件考案は、継手を使用せず一体成形された複雑形状のプラスチク管を提供したところに新規な技術的特徴を有するものであり、蛇腹部により管を折り曲げ自在なものにすることは本件考案の技術的課題ではない。もつとも、実際の製品においては、管自体が立体的に折曲した形状のものであっても、取付作業を容易にしたり振動を吸収する目的で管に蛇腹を設けることが望ましいが、これらはそれぞれ独立した技術的課題であって、この両方を同時に解決するプラスチック管を提供することは、本件考案が目的とするところではない。

被告が指摘する「従来は立体的に折曲変形し且つ取付時に折曲げできる管は存在しなかった」との記載は、実際の製品における望ましい実施態様を念頭においたものであり、本件考案の対象を管自体が立体的に折曲変形し、かつ、蛇腹により折り曲げ自在なものに限定する意図ではないことはいうまでもない。

(3) さらに、被告は、蛇腹部の存在が本件考案の必須の要件ではないと解すると、それは出願時の本件考案の要旨を変更するものであることになる旨主張する。

しかし、右の主張は本件訴訟における主張としての意味が不明であるのみならず、一般にあるものにある構成が付加されている場合、付加された構成に基づく機能が単に重畳的に加わるにすぎないときは、当該構成を削除しても要旨変更に当たらないことは明らかであるところ、本件は、出願当初明細書に記載されていた「三次元的に中心軸が変化した」プラスチック管という構成に重畳的に付加されていた「屈曲自在のプラスチック管」という構成が、出願途中に削除されたということにすぎず、考案の要旨を変更した場合にあたらない。

(四) 被告が主張する「変化する」とは「自由に折り曲げることができること(具体的には折り曲げ自在な蛇腹部を有していること)を意味するとの主張には理由がないことは前述のとおりであるが、ロ号物件は、前記した図面及び写真に明らかなように管の中心軸が三次元的に折曲変形しているとともに蛇腹部において折り曲げが自在であるから、右主張を前提としても、本件考案の構成要件Cの要件を充足するものである。

4  構成要件Dについて

(一)(1) イ号物件はポリプロピレンからなる熱可塑性樹脂を材料として成形されており、ロ号物件は三菱油化製「SPX」からなる熱可塑性樹脂を材料として成形されており、いずれも、その成形の工程中のパリソンは剛性の熱可塑性樹脂からなるものであるから、本件考案の構成要件Dを充足する。

(2) すなわち、本件明細書の考案の詳細な説明の項に「我国ではコストの低いポリエチレン、ポリプロピレン等からなる硬質熱可塑性樹脂で薄肉管として成形することが多い」(本件公報一欄二一、二二行)として、硬質(剛性)熱可塑性樹脂の具体的な例としてポリエチレン、ポリプロピレンが挙げられていることからすると、本件考案にいう熱可塑性樹脂の剛性の程度とは右を基準に解すべきところ、ポリプロピレンからなる熱可塑性樹脂を材料とするイ号物件が構成要件Dを充足することは明らかである。

また、ロ号物件の材料である三菱油化製「SPX」は、前記のとおり本件明細書に剛性熱可塑性樹脂の材料として例示されているポリプロピレンよりも少し軟らかくポリエチレンと同等の硬度を有しているのであるから、本件考案にいう「硬質熱可塑性樹脂」に該当するというべきであるし、また右「SPX」は、ゴムのような変形性(可撓性)を有するものではないから、本件考案にかかるプラスチック管のように三次元的に折曲した形状のものを作る場合、一体成形するか、従来技術のように継手を使用して組み立てるしかなく、本件考案の目的、特徴に照らしても、本件考案の対象たる「硬質熱可塑性樹脂」に属するものというべきである。

したがって、ロ号物件も構成要件Dを充足するものである。

(二)(1) 三菱油化製「SPX」のカタログに、「SPX」が「軟質」である旨の記載があるけれども、その「軟質」という記載がポリプロピレン等と比べて軟らかいという意味で使われていることは右カタログを一見すれば明らかであり、右記載を根拠に三菱油化製「SPX」が本件考案にいう「硬質」ないし「剛性」の熱可塑性樹脂に該当しないということはできない。

(2) また、被告は、三菱油化製「SPX」は「半硬質」熱可塑性樹脂であって、本件考案の「硬質」熱可塑性樹脂に当たらないと主張する。

しかしながら、被告の主張する「硬質」、「半硬質」、「軟質」の分類は、ASTM(米国材料試験協会)の定めた基準に従った場合の分類方法であり、しかもプラスチックの「引つ張りあるいは曲げ」弾性率を使用して分類したものにすぎないところ、本件明細書には「硬質」の意味がASTMの基準に従ったものであること、引つ張り弾性率あるいは曲げ弾性率をもって分類したものであるとの記載もそれを示唆する記載もないのであるから、本件考案にいう「硬質」の意味を、被告主張の趣旨と解することはできない。

しかも、本件明細書には、「硬質熱可塑性樹脂」の例としてポリエチレン、ポリプロピレンが挙げられているが、ポリエチレンはASTMの基準に従ったとしても、「半硬質」に属するのであるから、構成要件Dにいう「硬質熱可塑性樹脂」は、ASTMの基準にいう「硬質」と「半硬質」の双方を含むものと解され、被告の主張に理由がないことは明らかである。

(3) 本件実用新案権の出願経過において、特許庁から、公知刊行物として実公昭四九-四一五二四号公報(乙第一号証の三、以下「本件引用公報」という。)を引用して拒絶理由通知を受けたのに対し、原告が、本件考案は「硬質プラスチック材を使用し剛性であるのに対して、引例は軟質プラスチック材を使用し弾性的である」点で右公報記載の考案と異なっている旨の意見書を提出し、同時に「硬質」あるいは「剛性」という語を明細書に挿入する補正をしたが、これは、引用例記載の吸排液管は、「軟質剛性樹脂」で作製され主として長い直線状を有しており、使用に際して屈曲させられることが予定されているものであり、本件明細書において「変形性(可撓性)に富むゴム製のもの」と対比されている「ポリエチレン、ポリプロピレン等からなる硬質熱可塑性樹脂」とは異なることを意見書で説明するとともに、あわせて注意的に「硬質」あるいは「剛性」の語を挿入する補正をしたのである。このように、右の意見書提出の機会に「硬質」ないし「剛性」なる要件を付加したのは、本件考案の趣旨を一層明らかにするためのもので、「低密度ポリエチレン」製の管を本件考案の技術的範囲から除外する趣旨ではないことはもとより、「半硬質」プラスチック製の管を除外する趣旨でもない。

5  構成要件Eについて

(一)(1) 被告製品は、イ号物件目録添付の各物件の図面及び写真並びにロ号物件目録添付の図面及び写真にそれぞれみられるとおり、三次元的に折曲した管の部分が一体的に成形されており、いずれも本件考案の構成要件Eを充足する。

(2) すなわち、従来、プラスチック管を配管用ダクトとして用いる場合、複数の管を継手を使用して複雑な形状に組み立てる方法によらざるをえなかったため、継手部分から空気が漏れたり作業に手間がかかる等の問題点があったのに対し、本件考案は、継手を使用することなく複雑な形状のプラスチック管を一体成形し、これらの問題点を克服したところに特徴を有するのである。したがって「同一のパリソンから一体的に構成された」との要件は、三次元的に折曲した管の部分(すなわち、従来は継手を使用して三次元的に折曲した形状に組み立てていた部分)が一体的に成形されていること、換言すれば継手により複数のプラスチック管を連結させるのではなく、一体成形された管自体の形状が立体的に折曲していることを意味しているものと解される。また、このことは、右要件が、実用新案登録請求の範囲の記載において「三次元的に中心軸が変化する所定の管路形状」に関する要件と記載されていることからも明らかである。

したがって、管の本体(三次元的に折曲した胴体部分)が同一のパリソンで一体的に構成されている限り、必要に応じて付属部品が取り付けられたり、インサート部分が設けられることは、右の要件を充足するとの判断を妨げるものではないというべきであるから、三次元的に折曲し一体的に成形された管の部分にレゾネータがビス止めにより付属したイ号物件1、あるいはダクト胴体部分のほぼ中央にインサート部分が付されたロ号物件も、いずれも構成要件Eを充足するというべきである。

6  まとめ

以上のとおり、被告製品は、いずれも本件考案の構成要件をすべて充足し、したがって本件考案と同様の作用効果を奏するものであるから、本件考案の技術的範囲に属する。

八  損害

1  被告が、昭和六二年三月から平成三年一月二五日までの期間に製造、販売したイ号物件の販売額は少なくても次のとおりである。

イ号物件1 七〇〇〇万円

同物件2 七八〇万円

同物件3 三四一〇万円

同物件4 一四四〇万円

同物件5 一二八万円

同物件6 一億二六〇〇万円

右合計 二億五三五八万円。

2  被告が、平成二年一月から平成三年一一月一六日までの期間に製造、販売したロ号物件の販売額は、二三四〇万円を下らない。

3  本件実用新案権の実施に対し、原告が通常受けるべき金銭の額は、実施品の販売額の五パーセントに当たる金額であるから、被告の侵害行為により原告が被った損害の額は、イ号物件については、前記合計販売額二億五三五八万円の五パーセントである一二六七万九〇〇〇円を下らず、またロ号物件については、その販売額二三四〇万円の五パーセントである一一七万円を下らない。右損害金の合計は一三八四万九〇〇〇円となる。

九  結語

よって、原告は、被告に対し、本件実用新案権の侵害による損害賠償として、金一三八四万九〇〇〇円及び内金一二六七万九〇〇〇円については不法行為の後である平成三年一月二五日から、内金一一七万円については不法行為の後である同年一一月一六日から、各支払済みに至るまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金の支払いを求める。

第三  請求原因に対する認否

一  請求原因一ないし四は認める。

二  請求原因五は否認する。

本件考案は、本件明細書の考案の詳細な説明の項の冒頭の記載にもあるとおり、「特に立体的に折曲した形状のもので(その途中で折曲げが自由な硬質)熱可塑性樹脂製のものを提供すること」(本件公報一欄九、一〇行、( )内を付加すべきことは後述するとおり。)を目的とし、その産業上の利用分野は、「換気装置や冷房装置等における低温低圧下の送気ダクトに用いる配管用パイプ」である。

すなわち、本件考案は、換気装置や冷房装置等における低温低圧下の送気ダクトに用いる配管用パイプに関する従来技術に存した欠陥を克服する、熱可塑性薄肉のプラスチック製ダクトを提供しようとするものである。

以上のとおりであるから、本件考案は、低温低圧下の送気ダクトに用いる配管用パイプをコストの低い硬質熱可塑性樹脂製のものとしながら、装置取付箇所の個別的な条件に適応できるようにするため、立体的に折曲変形し、かつ、取付時に折曲げできるよう、管の途中で折曲げ自由になっている形状の管を継手なしに一体的に構成したことを特徴とするというものにほかならない。原告は、管の形状が単に立体的であるにすぎないものや、エンジンルーム内部の高温高圧下の配管用パイプまでも本件考案の技術的範囲に属するものとして、本件考案の技術的特徴を説明しているのであって、本件明細書の記載からして明らかに誤りである。

三  請求原因六は認める。

四  請求原因七について

1  構成要件Aについて

(一) 請求原因七の1の(一)のうち被告製品中、イ号物件1、3及び5並びにロ号物件がダクト管路用プラスチック管であり、イ号物件2、4及び6がレゾネータであり、それぞれイ号物件目録添付の各物件の図面及び写真並びにロ号物件目録添付の図面及び写真に示された管の構造と外観を有すること及びイ号物件1、3及び5並びにロ号物件が構成要件Aを充足すること、「ダクト」という語が、一般に、流体用の通路または導管を意味することは認め(ただし「ダクト」の解釈は争う。)、その余の主張は争う。

(二) 本件考案にいう「ダクト」とは、その内部を空気や流体が流れるための通路であることは、その技術的意義として明らかである。

これに対し、レゾネータとは、管の一方が封鎖されている形状を有するものであり、その開口端をエンジンルーム内の吸気ダクトの一部に取付け、吸気ダクト内で発生する吸気騒音の音波に共鳴させることによって、吸気騒音を低減させる一種の共鳴箱の機能を有するものである。その内部の空気は、吸気騒音による音波のため空気密度の粗密は生じるものの、ダクトのように空気などが流れるものではない。

実用新案権は、特定の物品の考案に対して認められる権利であり、本件実用新案権の対象とされる物品は実用新案登録請求の範囲に「ダクト管路用薄肉プラスチック管」と明記され、考案の詳細な説明の項には、本件考案の目的、効果として、右に言う「ダクト管路」とは、冷房等の低温低圧下の「送気ダクト」である旨が記載され、また、考案の目的、効果の記載においては、「冷房装置の通風ダクト」のうち、量産品が好ましい自動車用のそれに用いられることの利点を挙げているのであるから、ここでいう「ダクト」がレゾネータを含むものと解することはできない。

2  構成要件Bについて

(一) 請求原因七の2の(一)のうち、被告製品の各製品の図面に基本肉厚の指定が原告主張のとおり記載されていることは認めるが、被告製品が構成要件Bを充足するとの主張は争う。

ただし、イ号物件の基本肉厚はすべて二ミリメートル以上三・五ミリメートルの範囲である。原告はイ号物件の肉厚を一ミリメートル以上と主張しているが、右は製造誤差の許容数値を取込んでいるものであり、これは部分的な肉厚のむらを許容するという意味にすぎないのであるから、これを取込んで基本肉厚と理解するのは当業者の常識にはずれる。また、ロ号物件の実際の肉厚は、被告測定によれば二・四二~三・六七ミリメートルの範囲にある。

(二)(1) プラスチック管の製造販売にかかわる当業者は、被告製品の程度の肉厚をもって通常厚肉と称している。

(2) また、本件明細書中の従来技術に関する記載(本件公報一欄一二行から二九行)は、換気装置や冷房装置等における低温低圧下の送気ダクトに用いる配管用パイプの材料について、これを「硬質熱可塑性樹脂で薄肉管として成形することが多い」とする記載にすぎず、右記載から、本件考案にいう「薄肉」とはゴム製ダクトと比較して薄肉であるということはできない。

のみならず、仮に本件考案にいう「薄肉」を単にゴム管と比較したプラスチック管の一般的な性状を示す意味で用いるのであれば、何もプラスチック管に「薄肉」の要件を付加することはなく、単にプラスチック管とすればそれで十分であった筈である。

「薄肉プラスチック管」として実用新案登録請求の範囲に特定している以上、当然、これに対するものとして「厚肉プラスチック管」が存在するものと解すべきであり、これとの比較の上で「薄肉」という意味を解さなければ当該構成要件が意味をなさないことになる。

このように、本件明細書中には、薄肉について定義する記載がないのであるが、これは、後述するように、本件考案の対象が、低温低圧下の送気ダクトに限定されるものであり、当業者においては、当該ダクトが薄肉製のものであることが当然の前提となっているものと解されるからである。

明細書の記載は、名宛人を当業者とするものであり、その用語は、当業者にとって普通に理解される用法が求められ、特殊な用法に当たっては、明細書中に定義をすべきであるが、明確な定義がなくとも、明細書全体の記載からその意味内容が判明する場合はこれに従うべきものであるところ、本件明細書には、「一般に換気装置や冷房装置等における低温低圧下の送気ダクトに用いる配管用パイプ」(本件公報一欄一二、一三行)、「自動車用冷房装置のダクト」(同二欄三、四行)、「自動車用冷房装置の通風ダクト」(同五欄一四行)などとして、本件考案が専ら空調用ダクトとして用いられることのみが記載されており、特に前記の「低温低圧下の送気ダクト」となる記載からすると、右の一連の記載は、本件考案の単なる用途の例示ではなく、本件考案の対象そのものを明らかにする記載である。

すなわち、本件明細書は、「薄肉プラスチック管」ないし「薄肉管」の意味内容を、「低温低圧下の送気ダクトに用いる配管用パイプ」であるプラスチック管として定義しているものと解すべきである。

因みに、イ号物件3である日産インフィニティのエンジン周りのダクト(すなわち高温高圧下のダクトである。)は肉厚が三・〇と三・五ミリメートルであるのに対し、同車の運転席周り(空調用)ダクト(すなわち低温低圧下のダクトである。)の肉厚は一・五ミリメートルにすぎない。

(3) 右のように解すべきことは、原告自身が、本件考案の出願過程において明らかにしているところでもある。

すなわち、原告は、審査段階において拒絶理由として引用された本件引用公報に対する意見書(乙第一号証の四)において、「薄肉」のことには何ら触れず、特許庁から再度同じ理由で拒絶査定(乙第一号証の六)を受けるや、審判理由補充書(乙第二号証の二)を提出し、「本願考案は、換気装置や冷房装置等におけるダクト管路用プラスチック管、特に自動車用冷房装置のダクト管路用のプラスチック管に関するもの」(同号証三頁五行以下)であると述べ、本件考案の対象物品を明らかにして引用例との差異を強調した。

この点から見ても、本件考案にいう「ダクト管路用薄肉プラスチック管」とは、「低温低圧下の送気ダクト」に用いられるものを指すことは明らかであり、原告の主張のごとく、本件考案の対象を高温高圧下のエンジンルーム内の配管用パイプにまで拡張して解釈することは、禁反言の原則にも反し許されない。

(4) なお、原告は、設立以来、主として自動車用プラスチック製品の製造販売事業に従事してきた企業である。もし本件考案がエンジンルーム内の吸気ダクトにも用いられるのであれば、その原告が、現在では自動車用プラスチック製部品の代表的な存在であるエンジンルーム内の吸気ダクト管をたとえ例示であっても明細書に記載しない筈がない。

この点からも、本件考案が、低温低圧下の送気ダクトを対象としていたことは明らかである。

(5) このように、本件考案にいう「薄肉プラスチック管」とは、低温低圧下の送気ダクトに用いられる配管用パイプを意味するものと解すべきところ、被告製品はすべてエンジンルーム内の高温高圧下の吸気系ダクトであって、低温低圧下の送気ダクトではないから、この点において、被告製品は、構成要件Bを充足しない。

3  構成要件Cについて

(一)(1) 請求原因七の3の(一)の(1)のうち、被告製品が、イ号物件目録添付の各物件の図面及び写真並びにロ号物件目録添付の図面及び写真のとおり、いずれもその中心軸が三次元的に折曲変形した形状を有していることは認め、イ号物件が構成要件Cを充足するとの主張を争う。ロ号物件が、被告主張の構成要件Cの解釈の下で右要件に該当することは認める。

(2) 同(2)の主張は争う。

(二) 構成要件Cは、管の中心軸がいかなる方向へも屈曲(変化)できるということ、すなわち管がその途中で折り曲げ自由になっていること(具体的な例としては、本件明細書の実施例に示されるような管の途中に蛇腹部が設けられる態様が挙げられる。)を意味すると解すべきである。

(1) 本件考案の実用新案登録請求の範囲の記載について

本件考案にかかるプラスチック管の形状に関する構成は、「三次元的に中心軸が変化する」と表現されており、「三次元的に変化した」とはされていない。

したがって、「変化する」との語の通常の意味からして、当該構成要件が、管の中心軸が三次元的に屈曲できるよう構成されていることを意味すると解すべきであることは明らかである。

原告は、材料が「剛性」でありながら折り曲げが自由ということは矛盾していると主張する。しかしながら、本件明細書記載の実施例のとおり、蛇腹部があれば折り曲げ自由であることは明らかである。すなわち、材料が「剛性」であるからこそ、具体例としては蛇腹部を設けて折り曲げ自由とするのであって、折り曲げが自由であることと材料が「剛性」であることとは何ら矛盾しない。

(2) 考案の詳細な説明における記載について

〈1〉 本件考案の目的に関する記載

本件公報の考案の詳細な説明の項には、本件考案の目的に関して「本考案は剛性の薄肉プラスチック管に関するもので、特に立体的に折曲した形状のもので熱可塑性樹脂製のものを提供することを目的としている」(本件公報一欄八行から一一行)との記載がある。

しかしながら、右記載は、正しくは「本考案は剛性の薄肉プラスチック管に関するもので、特に立体的に折曲した形状のもので(その途中で折曲げが自由な硬質)熱可塑性樹脂製のものを提供することを目的としている」として、( )内の記載があるものとして理解されなければならない。

すなわち出願当初明細書の対応部分は、「本考案は薄肉プラスチック管に関するもので、特に立体的に折曲しその途中で折曲げが自由な熱可塑性樹脂製のものを提供することを目的としている」なる記載であったところ、昭和五三年七月一七日付けの手続補正書(乙第一号証の五)により、右記載は、イ、出願当初明細書一頁一〇行中、「本考案は」とある次に、「剛性の」の三字を加入する。(乙第一号証の五、二頁3項)、ロ、同一頁一一行中、「その途中で折曲げが自由な」とある前に、「た形状のもので」の七字を、また後に、「硬質」の二字を、各加入する。(同、4項)なる二点において補正されたが、「その途中で折曲げが自由な」なる記載に関する補正手続は一切なされないまま、本件考案は出願公告され、登録されるに至っているものである。

したがって、本件公報に右の「その途中で折曲げが自由な硬質」なる記載が脱落するに至ったのは、実用新案公報の作成に当たり、審査官あるいは審判官の過誤によって生じた重大な記載漏れであるといわなけばならないところ、実用新案公報は、出願公告決定された願書に添付した明細書の内容を公示する手段であるから、本件公報の記載が誤っていれば、正しい明細書の内容で考案を理解すべきであることはいうまでもなく、したがって右補正内容に従って、実用新案公報を正しく理解すれば、当該記載は前記のとおり「その途中で折曲げが自由な硬質」なる記載があるものとして理解されなけばならないことになる。

〈2〉 従来技術とその欠点並びに本件考案がこれを解決するためのものであるとの記載

本件明細書は、イ 送気ダクトに用いる配管パイプは、装置取付個所の条件が個別的に異なるため、できれば変形性(可撓性)に富むゴム製のものが望ましく、可撓性のない材料の場合は、汎用性のある各種形状の管継手を揃えて取付箇所に応じた配管がなされること(本件公報一欄一三行から一八行)、ロ しかしながらゴム製のものは製造コストが高いこと、そのためポリエチレン等からなる硬質熱可塑性樹脂で薄肉管として成形されるが、その場合は各種形状のエルボ管などの継手が必要とされ、継手部分で空気漏れが生じたり、取り付け作業の工数がかかるなどの不都合があること(同欄一九行から二九行)、ハ 従来のプラスチック管の製造技術では、エルボ管などの一部に蛇腹を設けて折り曲がり自在な形状を得ることが、技術的にもコスト的にも困難で不可能である結果、従来は立体的に折曲変形し、かつ、取り付け時に折り曲げできる管は存在しなかったこと(本件公報二欄二三行から二八行)などを挙げたうえ、この考案はこれらの問題点を解決する熱可塑性薄肉のプラスチック製ダクトを提供せんとするものであるとしている(同欄末行から三欄二行)。

要するに本件考案はゴムのように取り付け時に折り曲げることによって、個々に異なる取り付け個所の条件に合致する管を、硬質ないし剛性のプラスチックによって作ろうとするもので、そのために管に蛇腹部を設けることによって、取り付け時における折り曲げを可能とし、もってゴムと同じく取り付け個所の条件にみあったダクト管が得られるというものである。

したがって、本件考案における三次元的に中心軸が変化するとは、管がその途中でいかなる方向へも折り曲げ自由になっていること(その具体的な例としては蛇腹部が挙げられる)によって、中心軸が変化し得るようになっていることを意味するものであることは明らかである。

ことに前掲の記載中、「従来は立体的に折曲変形し且つ取付時に折曲げできる管は存在しなかった。この考案はこれらの問題点を解決する熱可塑性薄肉のプラスチック製ダクトを提供せんとするもので」(本件公報二欄二七行から三欄二行)あるとの記載が、本件考案が取付時に折り曲げ可能な管を提供するものであることを示していることは一点の疑問もない。

〈3〉 実施例の記載

本件考案にかかるプラスチック管の実施例は、本件公報第3図、第4図に記載されているとおり、いずれもその途中に蛇腹部を有しており、このような蛇腹部を設けた管以外の実施例は明細書に記載されていない。原告が主張するように、イ号物件のごとく蛇腹部のない管が本件考案の実施態様であるならば、まず第一番に、そのような蛇腹部のない管が実施例として示されるはずである。

(3) 出願経過の検討

〈1〉 原告は、構成要件Cに関して、出願当初は、管自体が立体的に折曲していることと蛇腹部を設けることが並立的な要件とされていたが、補正の結果、後者の要件が削除されたと主張する。

しかしながら、蛇腹部を設けることに関する要件を削除するのであれば、右の点に関する実用新案登録請求の範囲の記載を、単に「管自体が立体的に折曲している」とすれば足りたはずであり、わざわざ「三次元的に中心軸が変化する」という表現を採用していることこそ、管自体が屈曲自在であることを明らかにしたものといわざるを得ない。

すなわち、「三次元的に中心軸が変化する所定の管路形状」との表現が実用新案登録請求の範囲に加入されたのは、昭和五九年九月二六日付けの手続補正書による補正の際であるが、右により補正された実用新案登録請求の範囲には、「三次元的に中心軸が変化する所定の管路形状」なる必須要件に加えて、蛇腹部を設けることが所望事項とされていたのであり、これに対し、審査官より、不明瞭な記載であるとの指摘を受けて、後者の記述を削除し、現在の実用新案登録請求の範囲の記載のとおりとなる補正がされたものである。

右に明らかなように、審査官においても「三次元的に中心軸が変化する所定の管路形状」とは管の途中で自由に折り曲げることができるものであるとの解釈を前提としていたのであり、そうであるから、それにもかかわらず蛇腹部を所望事項としたことを不明瞭であるとしたのである。

したがって、蛇腹部を削除する手続補正は、蛇腹部を設けることを実用新案登録請求の範囲から外したのではなく、「三次元的に中心軸が変化する所定の管路形状」との表現で、右要件をカバーしたにすぎない。

加えて、前記のとおり、考案の詳細な説明の項には、「その途中で折曲げが自由な」プラスチック管を目的にしていること、従来は「取付時に折曲げできる管」はなかったが、本件考案はそれを提供するものであること、などの記載がそのまま残っているのであるから、原告の出願経過に関する主張はいかなる観点からも失当である。

〈2〉 また、本件考案の出願時における実用新案登録請求の範囲には、蛇腹部の存在が本件考案の必須の要件として明記されていたのであるから、実用新案登録請求の範囲における「三次元的に中心軸が変化する」との要件を、具体的には蛇腹部が存在して、管の中央で屈曲し得る構成のものと解釈しなければ、右記載を削除した変更は、考案の要旨を変更するものであることになる。

原告は、三次元的に中心軸が変化したプラスチック管も、出願当初明細書に記載されているから、右の実用新案登録請求の範囲の変更は要旨変更とはならないと主張するが、明細書には、当該考案の目的、構成及び効果が記載されていなければならないところ、出願当初の明細書に記載されていた本件考案の目的、構成及び効果はことごとく管の途中に蛇腹部を設けて自由に折り曲げることができるものについてのみであったのであり、単に三次元的に中心軸が変化しただけのプラスチック管についての、目的、構成及び効果は記載されていなかったのであるから、原告主張は失当である。

そして、仮に、当該構成要件に関する原告主張の解釈を採用するならば、前記のとおり本件明細書には要旨変更が存することになり、本件考案の出願日は昭和六〇年四月三〇日(早くとも昭和五六年五月八日)に繰り下がることになるが、その当時にはすでに本件考案の実用新案公開公報が公知になっていたから、本件考案は公知となっていた。

(4) 原告の有する他の特許公報からの検討

「三次元的に中心軸が変化する」との要件が、管の途中で折り曲げが自由であることを意味することについては、原告が別途有する特許第九八六八〇四号の特許公報(特公昭五四-一五五八〇号、乙第一〇号証)の記載と比較しても明らかである。

当該特許は、本件実用新案権の登録出願とほぼ同時期に出願されたものであり、発明の詳細な説明の項はかなりの部分が本件公報と同じ内容である。その特許公報の第1図は、本件公報の第5図とほぼ同じ図面であるが、前者は蛇腹部の存在を必須要件としていない折曲した形状の硬質プラスチック管の成形方法であるため、金型に蛇腹成形用の溝が記されていないのに対し、本件公報の第5図はそれが示されているのである。また、右特許公報の四欄三四行から四四行には、任意に採用し得る実施態様の例として蛇腹部を設けることを記述し、この蛇腹部分4a(第2図)で一定の折り曲げ変形が可能と説明しているが、当該記載は本件明細書には存在しない。これは本件考案では折り曲げ変形することが必須要件であり、任意に採用し得る例としては記述できないからにほかならない。

さらに右特許公報の五欄末行以下には、当該特許発明の効果として、「本発明は以上説明した如く構成されるので、既述のような価格の安い熱可塑性プラスチック材によって各種の変化に富んだ形状のダクトを廉価に且つ容易に作ることができ」ると記載されているが、これに対応する本件公報の記載は、「本考案は以上説明した如く構成されるので、既述のような価格の安い硬質熱可塑性プラスチック材によって各種の変化に富んだ、しかも取付個所の条件に応じた形状の剛性のダクトを廉価に且つ容易に得ることができ」(本件公報五欄九行から一三行)であり、対応する特許公報の記載に「取付個所の条件に応じた」なる記載が加えられている。この「取付個所の条件に応じた形状」とはまさに蛇腹部であり、前記特許公報においてはこれが必須の要件となっていないためこの記載がないのである。このように特許公報と本件公報には細かな部分に記載の相違が見られるが、その相違は、本件考案が管の途中で折り曲げが自由であることをもって必須要件としているからにほかならないのである。

4  構成要件Dについて

(一)(1) 請求原因七の4の(一)の(1)のうち、イ号物件がポリプロピレンからなる熱可塑性樹脂を材料として形成されていること、ロ号物件が三菱油化製「SPX」からなる熱可塑性樹脂を材料として成形されていることは認め、ロ号物件が構成要件Dを充足するとの主張は争う。

(2) 同(2)のうち本件明細書に「ポリエチレン、ポリプロピレン等からなる硬質熱可塑性樹脂」という記載があることは認めるが、その余の主張は否認ないし争う。

(二)(1) 本件考案においては、プラスチック管の材料として、「剛性熱可塑性樹脂」ないし「硬質熱可塑性樹脂」との表現がなされ、「剛性」ないし「硬質」を同義語として使用している。

(2) ロ号物件の材質である三菱油化製「SPX」は、プロピレンを主原料とし「EVA」(耐熱性には弱いが軟質で耐衝撃性がある)とを共重合させた特種共重合軟質樹脂であり、耐熱性があるが硬質で耐衝撃性が弱いというポリプロピレンの欠点を克服するものとして、プロピレンの軟質化、耐衝撃性改良分野、LD/PE(低密度ポリエチレン)及びEVAの耐熱性改良分野並びに熱可塑性エラストマー(TPE)の代替品として用いられるものである。したがって、この点だけをみても、ロ号物件が、本件考案にいう「剛性」ないし「硬質」熱可塑性樹脂ではないことは明らかである。

(3) 明細書における技術用語は、学術用語を、その有する普通の意味で使用し、特定の意味で使用しようとする場合ににおいては、その意味を定義して使用すべきであるところ、以下に述べるとおり、この観点からもロ号物件が、本件考案にいう「剛性」ないし「硬質」熱可塑性樹脂ではないことが明らかである。

すなわち、「硬質」との用語は、後に述べるように、本件考案の出願の過程で、公知の管との相違を示すために補正加入された要件であるが本件明細書中には「剛性」ないし「硬質」の意味を直接明らかにする記載はない。したがって、右用語は、当業者が普通の意味で使用している用語と同じ意味において用いられているものとして解すべきである。プラスチック業界の当業者においては、本件考案の出願当時から、ASTMの基準をもってプラスチックの硬度に関する一般的な基準として用いていたのであるから、「硬質」との用語は、右基準に従って解すべきであるが、右基準よれば、硬質プラスチックとは引張り弾性率又は曲げ弾性率が七〇〇〇kg/cm2(一万psi)以上のものを指し、軟質プラスチックとは引張り弾性率又は曲げ弾性率が七〇〇〇kg/cm2(一〇〇〇psi)以下のものを指し、その中間の引張り弾性率又は曲げ弾性率のものが半硬質プラスチックと分類されることとなる。したがって、普通の用法において「硬質」とは、右ASTMの基準にいう「硬質」の基準を満たすもののみをいうことと解される。

また、一般的に右定義による純然たる軟質プラスチック(七〇〇kg/cm2以下)は、柔らかすぎるため管としての形態を維持できず、ダクトや管のプラスチック成形の技術分野においては用いられることがなく、専らシート状製品やカバーなどとして用いられているのであるから、この種「プラスチック管」の技術分野において、硬質プラスチックと対比されるものは、半硬質プラスチックであり、当業者は、この半硬質プラスチックをもって軟質プラスチックと称している。このことは、本件考案の出願過程において公知技術として引用された本件引用公報において、サイホンポンプとして用いられる低密度ポリエチレンが、前記ASTMの基準によれば、半硬質であるのに、吸排液管が従来「軟質合成樹脂材よって作製される」(同公報一欄二二、二三行)という記述や、それを受けた意見書に記載された原告の意見、さらには前記三菱油化製「SPX」のカタログにおいて、これらの半硬質の合成樹脂を軟質樹脂とか軟質材料と記述していることなどからみても明らかである。

したがって、当業者においては、ASTMの基準に従い、半硬質を含まない硬質に分類されるプラスチックのみを、硬質プラスチックと認識していると認められ、本件考案にいう「硬質」も同様の意味であると解されるが、ロ号物件の材質である三菱油化製「SPX」(なお、「SP」とは、ソフトポリマー(Soft Polymer)の略である。)は、そのカタログに記載されているとおり、曲げ弾性率が二〇〇〇~五〇〇〇kg/cm2であって、ASTMの定義による半硬質に分類される材質であるから、本件考案にいう「剛性」ないし「硬質」熱可塑性樹脂でない。

(3) 原告は、本件考案にいう「硬質」とは、ゴム製のダクトとの対比において、そのような変形性(可撓性)に乏しいという意味であると主張するが、そもそもプラスチックが硬質か軟質かは、前記のとおり、引張り弾性率又は曲げ弾性率の程度をもって分類されるものであるから、ゴム製との対比において硬度が高いことは何らの意味もないのであるし、右主張は、出願経過における原告の主張とも矛盾し許されない。

すなわち、本件考案の出願経過をみると、本件考案に「剛性」ないし「硬質」の限定が加わるのは、本件引用公報を引用した昭和五三年四月二七日付けの拒絶理由通知を受けた後、同年七月一七日付けの意見書の提出と同日に提出された手続補正書による補正によってであるが、右意見書には、引用例のサイホンポンプの吸排液管が従来軟質合成樹脂で作製されるという点から、本件考案は「硬質プラスチック材を使用し剛性であるのに対して、引例は軟質プラスチック材を使用し弾性的である」点で異なっていると述べ(二頁a)、引用例の本件引用公報に記載された管は、本件考案にいう「硬質」でないことを前提に主張したものである。引用例の本件引用公報に記載されたサイホンポンプの吸排液管は、一般に灯油ポンプなどとして用いられているもので、材質は当時から低密度ポリエチレンが使用されていることが知られており、この低密度ポリエチレンがASTMの基準により「半硬質」と呼ばれる分類に属することは前述したとおりである。

したがって、このように、原告は、出願過程で、変形性(可撓性)に富む蛇腹付プラスチック管が既に公知であることを審査官から指摘され、右との比較のため、「剛性」ないし「硬質」の文字を付加したのであり、ゴム製のダクトと比較して変形性(可撓性)に乏しい意味であるなどとは一言も述べていない。のみならず、仮にゴム製のダクトと比較して変形性(可撓性)に乏しい意味として「剛性」ないし「硬質」の文字を付加したとしたら、引用例との比較においては、何ら進歩性を明らかにした補正にならなかったことも明白であり、これに矛盾する主張は、明らかに禁反言の原則に反する。

以上のとおり、原告は出願過程において、半硬質の材質からなる弾性的なプラスチック管を意識的に本件考案から除外するため、出願当初明細書の「熱可塑性樹脂」、「ポリエチレン、ポリプロピレン等からなる熱可塑性樹脂」との記載を、「剛性熱可塑性樹脂」「ポリエチレン、ポリプロピレン等からなる硬質熱可塑性樹脂」に補正したのであり、したがって構成要件Dにいう「剛性」ないし「硬質」とは弾性的な半硬質材の熱可塑性樹脂を包含しないことは明白である。

(三) したがって、ポリエチレンやポリプロピレンを原料としたものであっても、引張り弾性率又は曲げ弾性率が半硬質の分類に属する弾性的な材質(ロ号物件はこれに当たる)は、構成要件Dを充足しないというべきである。

5  構成要件Eについて

(一)(1) 請求原因七の5の(一)の(1)のうち、被告製品が、イ号物件目録添付の各物件の図面及び写真並びにロ号物件目録添付の図面及び写真のとおり、三次元的に折曲した管の部分が一体的に成形されていること、イ号物件2ないし6が構成要件Eの要件を充足することは認めるが、同物件1及びロ号物件が構成要件Eの要件を充足するとの主張は否認する。

(2) 同(2)の主張中、イ号物件1は、ダクトにレゾネータをビス止めして一体物とした製品であること、またロ号物件は、ダクト中間にインサート部分が付されたものであることは認め、その余の主張は争う。イ号物件1及びロ号物件は、いずれも同一パリソンにより一体的に成形されたものではない。

(二)(1) 構成要件Eは出願当初の明細書に示されておらず、拒絶理由通知書において公知例を引用して拒絶された後、拒絶査定不服審判事件の意見書に代わる手続補正書において挿入されたものである。この要件は、本件考案の技術分野において、従来多用されて来た各種形状のエルボ管の継手を必要とする「硬質熱可塑性樹脂の薄肉管」においては、継手部分で空気漏れが生じたり、取付作業の工数がかかるという問題点があったため、これを解決すべく採られたものであり、したがって、「同一のパリソンから「体的に構成される」とは、継手部分を設けることなく、同一のパリソンをもってダクト管路全体を一体的に構成することを意味するものである。

五  請求原因八の1は否認する。

同八の2のうち、原告主張にかかる期間中に被告が製造、販売したロ号物件の販売額を金一二七〇万九九五二円の限度で認め、その余の事実は否認する。

同八の3のうち、本件実用新案権の実施に対し、原告が通常受けるべき金銭の額については、その販売額の二パーセントの限度で認め、その余の事実は否認する。

六  請求原因九は争う。

第四  被告の主張(本件考案が出願前公知であったことに基づく主張)

一  本件考案は、その出願前に公知の技術であったもので、本件考案は新規性を欠如し無効原因を有するものである。

しかるところ、被告の親会社である株式会社ミトヨはすでに本件考案の無効審判を請求しており、本件実用新案権が無効とされることは明らかである。

したがって、本件実用新案権の技術的範囲は明細書に記載された実施例と同一のものに限定されるべきであり、そうでないとしても、無効事由のある実用新案権の侵害を理由とする本件各請求は権利の濫用であり、そうでないとしても、被告製品は何人にも実施の許された公知技術を実施しているものであり(自由技術の抗弁)、原告の請求は、いずれにせよ棄却されるべきである。

二  本件考案の出願前に次の公知技術があった。

1  公知技術1(昭和五〇年三月発行の日産自動車の「ダットサンブルーバード」のパーツカタログ。乙第四号証)

同カタログの418図に符号30としてダクトが図示されているところ、418図はルームヒーターに関するパーツを掲載してある箇所であり、符号30で示されるダクトは空調用のものであることが明らかである。そしてそのダクトの形状は、図面に示されるとおり、「三次元的に中心軸が変化した」ものに外ならない。

2  公知技術2(昭和四七年三月発行の日産自動車の「ダットサンブルーバード」のパーツカタログ。乙第五号証)

同カタログの123図には符号5としてダクト(サイドダクト)が図示されているところ、124図はルームヒーターに関するパーツを掲載してある箇所であり、符号5で示されるダクトは空調用のものであることが明らかである。そしてそのダクトの形状は、図面に示されるとおり、三次元的に中心軸が変化したものであるうえ、ダクトの途中に蛇腹部を有しているものである。

3  公知技術3(富士重工業株式会社の製造、販売にかかる軽四輪トラック「スバルサンバー」(型式K七一、以下「スバルサンバー」という。)の運転席の左右にそれぞれ取り付けられていたダクト。検乙第二号証)

(一) このダクトの形状は、ダクトそれ自体が三次元的に折曲した形状であるとともに、いずれもその中程に蛇腹部を有して三次元的に変化することが可能なものである。

このことは、その現物(運転席右側のダクト、検乙第二号証、以下「本件ダクト」という。)及び当該ダクトが自動車に取り付けられていた状況を事実実験した公証人富田孝三作成の自動車に設置してあるダクト管の形状等に関する事実実験の公正証書(乙第八号証、以下「本件公正証書」という。)によって、左右いずれのダクトも、三次元的に折曲変形したものであり、かつ、ダクトの途中に蛇腹部を有してその部分で屈曲が可能であること、同一のパリソンから一体成形されたプラスチック管であること、取り付け場所が運転室であり空調用のダクトであって肉厚も空調用であるから薄くなっている(左側のダクトでは下部接合部の肉厚が一ミリメートル)ことなどが公証されていることから明らかであるとともに、製造当初から当該ダクトがそのような形状をしていたことは、同社が昭和四八年二月一〇日に発行した「スバルサンバーシリーズ」の一九七三年版パーツカタログ(乙第六号証の一ないし三)の二六一頁に、符号11、12で示されている当該ダクトの形状がいずれも三次元的に折曲変形したものであるうえ、管の途中に蛇腹部を有していること、当該ダクトのうち運転席右側に取り付けられたダクトの図面(乙第七号証、以下「ダクト図面」という。)に示されたダクトが三次元的に折曲変形したものであるうえ、管の途中に蛇腹部を有していることを示していることから明らかである。

なお、ダクト図面が製造図であることは、ダクト図面には、本件ダクトが正面図(図面中央の図)、側面図(図面左側の図)とも長さが同一に描かれていて正面図も側面図とも同一の状態が描かれていると考えられるところ、正面図については注記4として「本部品ノ正面図形状ハ取付状態(図示)ニテ成型スルコト」とされていて、その指示どおり該部品の正面形状が図面通りのものであるならば、側面形状も当然図面通りの形状であるということになることから明らかである(もし、これとは異なり、側面図が取付図であり成形した状態では側面形状では蛇腹部が真っ直ぐであったとしたら、その分だけ蛇腹部は長くなり、正面形状が図面通りに作製されなかったことになる。)。したがって、ダクト図面が、「取付図」であるとして、本件ダクトが、三次元的に折曲した形状であるのは、取り付けられていたことによる「くせ」であるとの原告の主張は、技術常識に反するものである。

(二) また仮に本件ダクトの蛇腹部における折曲変形がないものとしても、本件ダクトは蛇腹部分以外で三次元的に折曲しているから、この点においても本件考案は公知そのものである。

すなわち、ダクト図面B矢視図にあるとおり、本件ダクトの上端部左右は前後方向(同図でいえば、上下方向)に捩じれていることが認められる一方、本件ダクトの下端部がホルン状に屈曲していることは明らかであり、このことはまさに本件ダクトが三次元的に折曲していることを示すものにほかならない。

さらに本件ダクトの上端部は、その左右が捩じれているだけではなく、上端部全体がダクト図面の側面図で言えば、左の方に傾いている。

したがって、本件ダクトはまず、平面形状において、その下部でホルン状に曲がっており、その上部にかけて、側面図において左方向(B矢視図においては上方向)に傾斜しながら、更にインパネ取付部では、取付部左右が前後方向に捩じれた形状をしているのであり、このことは、まさしく、本件考案に言う「左右上下前後方向に曲折した形状」(本件公報二欄二二、二三行)ということに該当する。

そして本件ダクトには、管途中に蛇腹部が設けられいるのであるから、「三次元的に中心軸が変化する所定の管路形状」をいかに解しようと、本件ダクトが、右構成要件を充足することは明らかである。

なお付言すれば、本件ダクトに現れた金型の合わせ面(パーティングライン)によっても、仮に蛇腹部が真っ直ぐであったとしても、本件ダクトが「三次元的に中心軸が変化する所定の管路形状」であることが明らかになっている。

さらに付言するならば、スバルサンバーに取り付けられていた左側のダクトは、蛇腹部分を除外しても、下端のほぼ直角に曲がった部分のほかに、中央の長い部分も真っ直ぐではなく、若干のカーブを持っており、このダクトが三次元的に曲がっていることは明らかである。

(三) 以上の点をさておいても、本件ダクトが公知、公用となったのは、スバルサンバーに取り付けられて販売された時点であるから、その時点において本件ダクトが三次元的に折曲変形し、かつ、蛇腹部を有して折曲自在の形状を有していたことが、本件ダクトはもとより、前記したパーツカタログ(乙第六号証の二)に示された図面等において明らかである以上、やはり本件考案は新規性がない。

すなわち、本件考案は、取付箇所の配管において継ぎ手を設けることなく、硬質熱可塑性樹脂を用いた取付箇所の条件に応じた形状の一体成型のダクト管を提供することを目的としているものであるところ、ダクトは配管前後を問わずダクトという物品自体に変わるところがなく、もともと折曲させることを目的で製造されているダクトの蛇腹部分が製造時点において真っ直ぐであったか曲がって作られていたかは配管後の公知、公用の状態を判断するうえで何ら問題ではないから、本件考案出願前の配管済ダクトが、複雑な配管箇所に継手がなく一体のダクトとして三次元的に配管されていたというのであれば、それ自体、本件考案の目的、効果の点で完全に一致していることとなり、本件考案との構成上の相違を認めることができないからである。

したがって、本件ダクトが、蛇腹部を真っ直ぐに成形されたものであるとしても、現に製造に当たって唯一提供されているダクト図面や、本来の製品の形状を示すパーツカタログ(乙第六号証の二)はいずれも蛇腹部分で曲げられて描かれており、それが本来折曲する目的で設けられていることは明らかであるから、公知、公用の状態において、本件ダクトが本件考案の構成要件を全て充足する以上、本件考案に新規性がないことは明らかである。

第五  被告の主張に対する原告の認否及び反論

一  実用新案権の有効性は、特許庁が判断すべき事項であるうえ、本件実用新案権については、被告の親会社である株式会社ミトヨの無効審判請求が既に特許庁において排斥されているのであるから、本件訴訟において、本件実用新案権の有効、無効を論じる意味はない。

右の点をおいても、以下に述べるとおり、被告主張にかかるいずれの公知技術も、「三次元的に中心軸が変化する所定の管路形状」という要件を充足するものではないから、被告の主張は失当である。

二1  公知技術1、2について

両図面に図示されているダクトは二次元的に折曲しているにすぎないから、これにより本件考案が出願前、公知となることはない。原告の主張は失当である。

2  公知技術3について

(一) 本件ダクトは、成形時には平面的(二次元的)に折曲しているにすぎず、車両に取り付ける際に蛇腹部で前後方向に曲げられてはじめて三次元的に折曲した形状となるものである。車両から取り外した状態である本件ダクトが、三次元的に折曲しているように見えるとしたら、それは単に蛇腹部が一〇年以上も折り曲げられたため、いわゆる「くせ」がついているにすぎない。したがって、本件ダクトによつて、本件考案が出願前公知となるとの主張は失当である。

ダクト図面記載の「4本部品ノ正面形状ハ取付状態(図示)ニテ成形スルコト 5 ジャバラハ取付状態ニスル時、1kg以下デ曲ガルコト。(側面図前後方向)」との注記の記載をみれば、ダクト図面が本件ダクトの製作図ではなく、「取付状態」を図示したものであることが明らかである。

したがって、ダクト図面を製造図であるとして、本件ダクトが該図面に記載された形状に製造されたものとする被告の主張は失当である。

そもそも当時のブロー成形技術ではダクト図面を制作図とする金型の製造は困難であり、本件明細書に「上記問題の原因は主にプラスチック管の製造技術から制約されるもの」(本件公報二欄一、二行)と記載されているように、従来、一体成形された三次元的に折曲した形状のプラスチック管を工業的に大量生産する技術は存せず、そのような技術は原告が有する特許第九八六八〇四号(発明の名称「折曲した形状の硬質プラスチック管の製造方法」)の発明により初めて可能になったものである。ダクト図面は取付図であるから、ダクトの製造に支障を来さないのであるし、このように取付図や使用図によって製造を指示することは自動車メーカーなどの場合には普通に行われていることである。

ちなみに、ダクト図面の注4の「本部品ノ正面形状ハ取付状態(図示)ニテ成形スルコト」とは「蛇腹が左右に曲がった状態、すなわち二次元的に折曲した形状で成形される」という意味であって、正面図が成形時の状態そのものを示しているのではない。

被告は、ダクト図面における正面図と側面図のダクトの長さが等しいという点をもって、側面図は取付状態を示すものではないとするが、右主張は、正面図を製造状態を示す図面とみなして側面図に対比しているが、そもそもその前提が誤りである。すなわち、正面図は成形時の状態そのものではなく、側面図に示されるごとく取り付けられた状態でのダクトの正面形状を示すものであるから、正面図と側面図のダクトの長さが同一であることは当然である。

なお、本件ダクトがダクト図面のとおり製造されたものでないことは、本件ダクトが、被告によって車両から取り外されたことにより、取付状態から製造時の真っ直ぐな形状に復帰すべく側面形状の曲率が小さくなり、ダクト図面で指示されたダクトよりも側面形状の曲がりが少なくなっていることからも明らかである。

(二) 被告は、本件ダクトは蛇腹部が真っ直ぐであるとしても、その上端開口部において傾いており、全体として三次元的に折曲変形している旨主張する。

しかし、本件ダクトをみても、開口部が傾斜しているかどうかは明確ではない。これはダクトの両側の壁がそれぞれ内側方向に倒れ込むとともに、上端部の切り口がパネルの形状に合わせて斜めにカットされていることから、ダクトの上部が左側に傾斜しているようにみえるにすぎないのであり、ダクトの中心軸が何ら変化しておらず、本件考案にいう「三次元的に中心軸が変化する」との要件を満たさない。

また、開口部が若干傾いていたとしても、そのような微小の曲がりは本件考案の目的、効果に照らして、本件考案の右記要件を充足するものではない。

すなわち、本件考案は、従来技術においては、ゴムのような変形性(可撓性)に富む材質の管を三次元的な形状に折り曲げて使用するか、それに乏しい材料のものと複数の管を継手によって三次元的な形状に組み立て使用するほかなかったのに対し、三次元的に折曲変形した形状の管を一体成形したところに特徴を有するものであるから、かかる本件考案の目的、効果にかかわりのない微小な傾きを有するにすぎないものによって、本件考案が出願前公知となるものではない。

ブロー成形は中空のパリソンに高圧の空気を吹き込む成形方法であるためその精度は必ずしも高くなく、製品の厚さに一~二ミリメートル程度のばらつきがあることが常識である。したがって、被告が主張するような微小の傾きは、本来、製造誤差の範囲のものであり、それによって技術的に意味のある三次元的形状が形成されているとはいえないのである。

なお被告は、金型の型合わせ面(パーティングライン)の形状をもって、本件ダクトが三次元的に折曲変形している証左である旨主張するが、右面がいかなる形状を有するかということと、ダクトの中心軸がいかなる変化態様を有するかということは、全く別問題であり、被告主張は失当である。

(三) 本件ダクトが使用状態において、三次元的に折曲変形していることをもって、本件考案が新規性を欠くとの被告の主張は、蛇腹部を設けて屈曲自在とした本件引用公報に現れた吸排液管の引用例に対して、本件考案が剛性であり所定の管路形状を有するものであるとして実用新案登録された経緯を無視するものである。本件考案は、蛇腹部を屈曲させて三次元形状としたダクトに関するものではなく、剛性の管自体が三次元的に折曲した形状のダクトに関するものであり、まさにその点において新規性が認められたものであるから、本件ダクトの使用状態における蛇腹部を利用した三次元的な折曲変形の形状をもって、本件考案が公知となる根拠とする主張は失当である。

第六  証拠

本件訴訟記録中の書証目録及び証人等目録の記載を引用する。

理由

一  請求原因一ないし四及び六は当事者間に争いがない。

二  本件実用新案登録願に添付した明細書の記載について

成立に争いのない甲第二号証によれば、本件公報の考案の詳細な説明の項の冒頭には、「本考案は剛性の薄肉プラスチック管に関するもので、特に立体的に折曲した形状のもので熱可遡性樹脂製のものを提供することを目的としている。」(本件公報一欄八行から一一行)との記載があることが認められる。

また成立に争いのない乙第一号証の一及び弁論の全趣旨によれば、本件公報作製の基礎となった実用新案登録願に当初添付された明細書中の右記載に対応する部分は、「本考案は薄肉プラスチック管に関するもので、特に立体的に折曲しその途中で折曲げが自由な熱可遡性樹脂製のものを提供することを目的としている。」との記載であったが、現在の乙第一号証の一中の明細書には、一頁一〇行目の「本考案は」とある次に「剛性の」の三文字が手書きで事実上加入され、同頁一一行目の「その途中で折曲げが自由な」の一二文字が手書きで事実上削除され、その箇所に「た形状のもので」の七文字が手書きで事実上加入され、右の二箇所の右余白部分に「補正書ニヨリ補正」と押印されていることが認められる。そして、右のような加除がされた結果の文章は前記認定の本件公報の記載と一致しているものである。しかし、成立に争いのない乙第一号証の五によれば、昭和五三年七月一七日付けの手続補正書により、前記記載に対応する部分について、「第一頁一〇行中、「本考案は」とある次に、「剛性の」の三字を加入する。」、「第一頁一一行中、「その途中で折曲げが自由な」とある前に、「た形状のもので」の七字を、また後に、「硬質」の二字を、各加入する。」との補正がされたことが認められるが、右に対応する部分について、それ以外の補正が記載された補正書が提出されたことは、本件全証拠によっても認めることができない。

したがって、現在の乙第「号証の一中の明細書一頁「〇行目、一一行目の手書きの加除のうち、「本考案は」とある次に「剛性の」と、「その途中で折曲げが自由な」とある前に、「た形状のもので」とそれぞれ加入されている点は前記手続補正書による補正に合致しているが、「その途中で折曲げが自由な」との記載は、線で抹消され、右余白部分に「補正書ニヨリ補正」と押印されてはいるものの、そのような手続補正がされたものとは認められず、また、「その途中で折曲げが自由な」とある後に「硬質」を加入する手続補正に合致する加入はされていないから右部分の明細書の記載は正しくは、「本考案は剛性の薄肉プラスチック管に関するもので、特に立体的に折曲した形状のものでその途中で折曲げが自由な硬質熱可遡性樹脂製のものを提供することを目的としている。」というものであると認められる。

右のような乙第一号証の一への事実上の加除の方式は、特許庁における特許出願、実用新案登録出願についての審査、審判の過程で手続補正書によって明細書の補正が行われた場合に、出願公告公報印刷用の原稿として補正後の明細書の記載が理解しやすいように事実上記入されることがあるものと方式が共通しており、内容は本件公報と一致していることからみて、乙第一号証の一への事実上の加除は出願公告前に特許庁職員によってされた可能性が高いものと認められる。

右のような記入がされた理由は明らかではないけれども、明細書の記載の加入、削除等の補正は、手続補正書を提出してしなければならないことは、法律の定めるところであり(平成五年法律第二六号による改正前の実用新案法五五条二項により準用される平成五年法律第二六号による改正前の特許法一七条三項)、これに違反した方式による補正は法律上効力がないから、本件実用新案登録願に添付された明細書には、乙第一号証の一への事実上の記入及び本件公報の記載の内、対応する手続補正がなされていない部分は、実際に提出された手続補正書による補正のみがされたように記載されているものと認める外ない。

三  構成要件Cの意味と、イ号物件の構成要件Cの充足性

1  本件考案の実用新案登録請求の範囲の記載について

構成要件C中の「三次元的に中心軸が変化する所定の管路形状」にいう「三次元的に中心軸が変化する」という語は、一般的な言葉の用法としては、「変化する」という述語が受ける主語である「中心軸」が「三次元的に」、現に変化している(動いている)との意味にも、変化することが可能であるとの意味にも、また、変化してしまっている静的状態を示す意味にも用いられる語であり、しかも、それが厳密な意味の使い分けを意識せずに使用される場合も少なくないと認められるところ、本件の場合、実用新案登録請求の範囲に使用されて、部品の形状、構造又は組み合わせに係る技術思想を表現していることを考慮すると、中心軸が三次元的に変化している(動いている)との意味は不適切であると言えるが、それ以上に「三次元的に中心軸が変化する」の意味を実用新案登録請求の範囲の記載のみによって明らかにすることはできない。

2  そこで、考案の詳細な説明の項の記載を検討する。

(一)  本件明細書の考案の詳細な説明の項の冒頭の考案の目的についての記載が、「本考案は剛性の薄肉プラスチック管に関するもので、特に立体的に折曲した形状のものでその途中で折曲げが自由な硬質熱可遡性樹脂製のものを提供することを目的としている。」というものであることは前記二に判断したとおりである(なお、「可遡性」とあるのは「可塑性」の誤記と認められるから、以下「可塑性」と記載があるものとして引用する。)。したがって、本件明細書には、本件考案の目的が「立体的に折曲した形状」で、かつ、「その途中で折曲げが自由な」硬質熱可塑性樹脂からなる管を提供することにあることが明記されているものである。

(二)  また、本件明細書の考案の詳細な説明の項には、前記の目的に関する記載に続く、従前技術の問題点についての記載部分において、「この方法では平面的折曲した形状しかできず、立体的すなわち、左右上下前後方向に曲折した形状を得ることは無理であった。またエルボ等の一部に蛇腹を設けて折曲がり自在な形状を得ることも、バリ16を切除しなければならない関係で技術的にもコスト的にも困難で不可能である結果、従来は立体的に折曲変形し且つ取付時に折曲げできる管は存在しなかった。この考案はこれらの問題点を解決する熱可塑性薄肉のプラスチック製ダクトを提供せんとするもので」(本件公報二欄二一行から三欄二行)との記載があることが認められ、この記載によっても、本件考案が、三次元的な形状を有し、かつ、折曲自在の管を提供するものであることが明らかにされている。

(三)  また、本件明細書の考案の詳細な説明の項及び本件実用新案登録願に添付された図面には、本件考案の実施例として、いずれも立体的に折曲変形し、かつ、折曲部に蛇腹部を有し、その部位において折曲自在である二種類のプラスチック管が、記載されていることが認められる。

すなわち、図面中第4図に示されたプラスチック管が立体的に折曲した形状であり、かつ、蛇腹部を有することは図自体から明らかである。

また、第3図のプラスチック管が蛇腹部を有することは図自体から明らかである。一方その形状は、同図から直ちに立体的に折曲変形していることを看取しづらいが、その成形に用いる第5図の装置について、「金型3の合わせ面は図示するように所望の溝形状の曲がり(即ち成形しようとするプラスチック管の三次元的に変形している曲線)に合わせて前後、左右、上下方向に曲線をなしている」(本件公報三欄二七行から三一行)との記載があり、また第5図によっても、その溝形状が三次元的に折曲変形していることが看取されるから、右により成形される第3図に示されたプラスチック管が、立体的に折曲変形した形状を有していることは容易に認められる。

実施例によって本件考案の実用新案登録請求の範囲の技術的範囲を限定して解すべきでないことは当然であるが、これらの実施例が、いずれも立体的に折曲変形し、かつ、折曲げ自在であり、これと異なる実施例は記載されていないことは、構成要件Cを中心軸が立体的に折曲変形し、かつ、折曲げ自在であるものと解釈することにそうものでこそあれ矛盾するものではない。

3  右1、2に判断したところによれば、構成要件Cにいう「三次元的に中心軸が変化する所定の管路形状」とは、管路の中心軸が三次元的に折曲変形した所定の形状で、かつ、その途中で自在に折曲できるという意味であると解釈するのが相当である。

4(一)  原告は、本件考案は、実用新案登録請求の範囲において該プラスチック管の材料を「剛性」としているところ、「剛性」な材料をもって管の中心軸が三次元的に屈曲できるように構成するということはあり得ないから、「変化する」とは変化した形状を指すものと解すべきである旨主張する。

しかしながら、前記2(三)認定の本件考案の実施例に明らかなように、蛇腹部を設けることにより、硬質(本件考案の実用新案登録請求の範囲にいう「剛性」が「硬質」と同義であることは、後記四3(構成要件Dについて)の判断において示すとおりである。)な材料を用いながら、管の中心軸を三次元的に屈曲することが可能であることは明らかであるから、材料について「剛性」という要件があるとしても、そのことにより「変化する」の意味を原告主張のように解すべき根拠にはならない。

また原告は、「所定の管路形状」なる要件の「所定の」という語から、管自体が特定の形状をしているという意味に解されることも、「変化する」の語を、変化した形状を意味するものと解釈する根拠として主張する。しかし、三次元的に折曲げ自在であっても、それが一定の形状の範囲に限られるものであれば、その管路形状をもって「所定の」管路形状ということは何ら問題がないから、原告の主張に理由はない。

(二)  原告は、本件明細書において、折曲自在の趣旨を表現するときは、「折曲自在」あるいは「折曲げできる」との表現が用いられており、実用新案登録請求の範囲にある「三次元的に・・・変化する」という表現と明らかに区別されているから、この点においても「変化する」なる要件が、蛇腹部により折曲自在であることを含まないものであることが明らかである旨主張する。

確かに、本件明細書には、折曲自在の趣旨を表す記載として、前記二1認定の箇所の「折曲げが自由な」の外、ア「またエルボ等の一部に蛇腹を設けて折曲がり自在な形状を得ることも、バリ16を切除しなければならない関係で技術的にもコスト的にも困難で不可能である結果、従来は立体的に折曲変形し且つ取付時に折曲げできる管は存在しなかった。」(本件公報二欄二三行から二八行)、イ「その間に折曲げ自在な蛇腹部17aが斜めの立上り部として形成されている。」(同三欄八、九行)、ウ「前後の立上り部と底辺部にそれぞれ折曲自在な蛇腹部17aが介設されている。」(同欄一三、一四行)と、「折曲がり自在」、「折曲げできる」、「折曲げが自由な」、「折曲げ自在」あるいは「折曲自在」との表現が用いられていることが認められ、これらは実用新案登録請求の範囲にある「変化する」という表現と異なっている。

しかしながら、本件明細書中、管路の状態について、「変化する」との語を、変化してしまっている静的状態の意味で限定して用いている記載はなく、変化してしまっている静的状態を表現する語としては、前記二1認定の箇所の「折曲した形状」、前記アの部分の「折曲変形し」の外、「曲折した形状」(本件公報二欄二二行、二三行)、「折曲がっており」(同三欄一行)、「変形している」(同欄三〇行)等の表現が用いられていることが認められるから、原告の主張は、論拠がない。

(三)  原告は、本件実用新案権の出願過程における、実用新案登録請求の範囲の補正の経過に基づき、「三次元的に中心軸が変化する」とは、三次元的に折曲変形してしまっている状態のみを意味するものである旨主張する。

前掲乙第一号証の一、五及び乙第二号証の二並びに成立に争いのない乙第一号証の二ないし四、六及び乙第二号証の一、三ないし一〇によれば、本件考案の実用新案登録請求の範囲の記載は、出願の過程で次のとおり順次補正され変遷してきたものと認められる。

(1) 出願当初明細書における実用新案登録請求の範囲の記載は、「配管個所の条件に応じて立体的に折曲した形状に成形し、任意な箇所に成形後においても折曲自在な蛇腹部(17a)を設けた熱可塑性剛性樹脂材よりなる薄肉プラスチック管」というものであった。

(2) 右実用新案登録請求の範囲の記載は、昭和五三年七月一七日付けの手続補正書により、「硬質熱可塑性剛性樹脂材よりなり、適数の折曲部によって立体的に形成され、適宜個所に蛇腹部(17a)と肉厚変化部を有する剛性の薄肉プラスチック管。」と全文が補正された。

(3) 右実用新案登録請求の範囲の記載は、昭和五六年五月八日付け手続補正書により、「二次元以上の変化をする所定の管路形状を有する溝を刻設した二つ割金型の下金型とパリソン注出用ノズルとを前記管路形状に従って相対的に移動させてパリソンを前記溝に沿って溝内に収納させ、対応する溝を有する上金型をパリソンを収納させた下金型に合接させた後に該パリソンに吹込成形を行なって前記所定の管路形状に成形したダクト管路用薄肉プラスチック管に於いて、前記プラスチック管を熱可塑性合性樹脂材から構成し、前記所定の管路形状は予め定まった少なくとも二方向に変化する異方向部分を有し、所望により適宜箇所に蛇腹部を設けたダクト管路用薄肉プラスチック管。」と全文が補正された。

なお、同日付けで提出された審判理由補充書には、「本願考案のプラスチック管は、予め定まった少なくとも二方向に変化する異方向部分を有するものであって、プラスチック管自体が既に予め決められた複雑形状を有するものであるが・・・ただ、本願考案においても、複雑形状を有するプラスチック管を冷房装置等に取り付ける場合には、管に多少の屈曲性があることが便利であるから、所望により適当箇所に蛇腹部を設けるものである。」との記載がある。

(4) 右実用新案登録請求の範囲の記載は、昭和五九年九月二六日付けの手続補正書により、「ダクト管路用薄肉プラスチック管において、前記プラスチック管は三次元的に中心軸が変化する所定の管路形状を有しており且つ剛性熱可塑性樹脂から一体的に構成されており、所望により適宜箇所に蛇腹部を設けたダクト管路用薄肉プラスチック管」と全文が補正された。

(5) 右実用新案登録請求の範囲の記載は、昭和六〇年四月三〇日付け意見書に代る手続補正書により、全文が補正され、現在の本件考案の実用新案登録請求の範囲の記載のとおりとなって出願公告決定がされた。

右認定の実用新案登録請求の範囲の記載について(1)から(4)までの変遷をみると、当初、(1)、(2)においては、管自体が三次元的に折曲した形状に成形されていることと、成形後も折曲自在な蛇腹部の存在が、並列的な要件とされていたが、(3)、(4)においては、後者の構成が所望事項であることが明示されていたものである。また右変遷中、管自体が三次元的に折曲した形状に成形されているとの要件に対応する表現は、(1)では「立体的に折曲した形状」、(2)では「適数の折曲部によって立体的に形成され」、(3)では「所定の管路形状は予め定まった少なくとも二方向に変化する異方向部分を有し」、(4)では「三次元的に中心軸が変化する所定の管路形状を有しており」であったことが認められる。そして現在の実用新案登録請求の範囲中構成要件Cに対応する部分は右(4)と全く同一である。

このような、出願経過における実用新案登録請求の範囲の記載の変遷の側面からのみ検討すれば、現在の実用新案登録請求の範囲の記載中構成要件Cに対応する部分は、右(4)の実用新案登録請求の範囲の記載において、三次元的に折曲した形状に成形されていることのみを意味していると解される文言と全く同じであるから、最終の実用新案登録請求の範囲の記載の補正は、当初の考案の構成要件から、折曲自在な蛇腹部を設けるとの構成を削除したものであり、構成要件Cは、折曲自在であるという意味を含まない、三次元的に折曲変形している形状を指す意味で用いられているとする原告の主張は、こと原告の主観的意図がそうであったという限りでは、認められる余地があろう。

そして、その主観的意図がそのようなものであったとすれば、前記2(一)の考案の目的についての記載、2(二)の従来技術の問題点の記載は右(5)の補正をする際同時に補正すべきものを、過誤により、適正な方式で補正し忘れたということになろう。

しかしながら、考案の技術的範囲は、出願人の主観的意図がどうであったかを探求して定めるべきものではなく、願書に添付した明細書記載の実用新案登録請求の範囲の記載に基づき定めるべきものであって、その場合、明細書のその余の記載及び図面を考慮して、用語の意味を解釈するものであることは、平成六年法律第一一六号による特許法七〇条二項(実用新案法二六条により実用新案権に準用される。)の追加の前後を通じて当然のことである。仮に出願人の主観的意図からすれば補正し忘れたものとしても、単なる誤字の訂正漏れのように現在の明細書、図面の記載を無視することはできない。

なるほど、出願人が、実用新案権成立までの出願の過程において、当該考案の技術的範囲が、明細書及び図面を考慮して認識できる考案の技術的範囲よりも限定されたものであることを客観的に表明している場合には、信義誠実の原則に照らし、出願の経過において出願人が表明したこと参酌して実用新案登録請求の範囲の記載を限定解釈することは許されることである。けれども明細書の実用新案登録請求の範囲以外の部分及び図面を考慮して、実用新案登録請求の範囲の用語の意味を解釈した場合よりも技術的範囲を拡大するために出願経過を参酌することは許されない。

原告の主張は、前記1ないし3のとおり、本件明細書の記載と図面を考慮して認定判断した構成要件Cの意味から、出願経過を参酌して、「その途中で自在に折曲できる」という事項を除外して技術的範囲を拡大するよう解釈すべきであるというものに外ならずその余の点について判断するまでもなく採用できない。

なお、訴外株式会社ミトヨが請求した本件実用新案権を無効とする審判請求事件における審決(甲第三号証、甲第三九号証)、その審決取消訴訟の判決(甲第四号証)において、構成要件Cの意味について原告の主張にそう判断がされているとしても、その判断が、当裁判所の判断を拘束するものではない。

5  右3に判断したとおりの構成要件Cの解釈に従うと、いずれも蛇腹部等の途中で自在に折曲できる屈曲構成を備えていないイ号物件は構成要件Cを充足しない。

したがって、その余の構成要件を充足するか否かを判断するまでもなく、イ号物件は本件考案の技術的範囲に属しないものである。

四  ロ号物件は本件考案の技術的範囲に属するか。

1  構成要件Cについて

ロ号物件は、その中心軸が三次元的に折曲しているとともに、蛇腹部において折曲げが自在であるから、右三に認定した構成要件Cの意味によれば、構成要件Cを充足する。

2  構成要件Aについて

ロ号物件が構成要件Aを充足することは当事者間に争いがない。

3  構成要件Bについて

(一)  「薄肉」の語が学術用語、技術用語として特別の意味を有していることを認めるに足りる証拠はない。また、本件明細書中に「薄肉」を定義した記載はない。

一般用語としての「肉」の語は、動物の肉という元の意義から派生して、「物の厚さ。太さ。」の意味を有することは当裁判所に顕著である。したがって、一般用語としての「薄肉プラスチック管」とは、プラスチック製の管の管壁を構成するプラスチックの厚さが薄いものと理解される。

そして、一般に「薄肉プラスチック管」という場合の肉が薄いとは、同類のものとの比較による相対的な表現で、ある数値を基準としてそれより薄いかどうかを問題にするものとは認められない。

(二)  本件明細書には、従来技術の問題点として、「ゴム製のものはその機能及び取付作業の面でも優れているが、製造コストが著しく高いため我国ではコストの低いポリエチレン、ポリプロピレン等からなる硬質熱可塑性樹脂で薄肉管として成形することが多いが、この場合前述するように各種形状のエルボ等の継手を必要とするのみならず、複雑な形状部分における多くの継手部分で空気漏れが生じたり、取付作業の工数がかかる等の不都合があり、これらを防止しようとすればコスト的にも高くならざるを得ない等の欠点があった。」(本件公報一欄一九行から二九行)との記載があることからすれば、硬質熱可塑性樹脂の薄肉管そのものは本件実用新案権登録出願の当時多く使用されていたものである。

成立について当事者間に争いのない乙第八号証、原本の存在及び成立に争いのない乙第一六号証、公証人認証部分は成立について当事者間に争いがなく、右部分によってその余の部分も真正に成立したものと認められる甲第七号証によって真正に成立したものと認められる乙第七号証及び被告指示の物であることに当事者間に争いのない検乙第二号証並びに弁論の全趣旨によれば、被告が本件考案が出願前公知であったことの事由として引用するから薄肉管に属するものというべき検乙第二号証のダクト及びそれと同じ自動車に装着されていたダクトは、一方の物の下部接合部の肉厚が一ミリメートル、他方の物の上端開口部分の肉厚が二・四ミリメートルの肉厚であること、それらのダクトの図面にはいずれも一般部の肉厚は一・五ミリメートルと指示されていることが認められる。

また、成立に争いのない甲第一三号証、甲第二一号証ないし甲第三一号証によれば、昭和五七年ないし平成二年当時我が国の自動車メーカー数社の乗用車に用いられているポリプロピレン、ポリエチレンを用いたエンジン周り用、運転席周り用ダクトの設計上の基本肉厚は、一・五ミリメートルから二・五ミリメートルの範囲にあったことが認められ、前掲検乙第二号証のダクト及びそれと対になっているダクトの肉厚に、肉厚を厚くする方向での改良があったこと等特段の反証のない本件においては、本件出願当時においても、自動車用ダクトにおけるポリプロピレンあるいはポリエチレンからなるプラスチック管の平均的な肉厚の程度は、昭和五七年ないし平成二年当時の製品と同程度のもので、それが薄肉管に相当するものと推認できる。

(三)  右(一)、(二)のような事実によれば、一般的肉厚、基本的肉厚が二・五ミリメートル以下に設計された管は、本件実用新案登録請求の範囲記載の「薄肉」プラスチック管に該当するものと認められる。

(四)  被告製品の図面に示された肉厚は前記のとおり争いがなく、成立について当事者間に争いのない甲第一二号証によれば、ロ号物件の仕様を記載した図面には、仕様として、基本肉厚一・五ミリメートル(最大二・五ミリメートル、最小〇・六ミリメートル)と指示されていることが認められる。

これによれば、ロ号物件は薄肉プラスチック管であるとの構成要件Bを充足する。

(五)  被告は、実際のロ号物件の肉厚は、二・四二ミリメートルから三・六七ミリメートルの範囲であると主張するが、それにそった証拠もなく、図面に基本肉厚として指示された一・五ミリメートル(最大二・五ミリメートル。最小〇・六ミリメートル)をもって肉厚と認定するのが相当である。

また、被告はプラスチック管の製造販売にかかわる当業者は、被告製品程度の肉厚を以て通常厚肉と称している旨主張するがこれにそう証拠はない。

さらに被告は、本件明細書において、本件考案の対象製品は「低温低圧下の配管用ダクト」であると限定されており、そのような記載内容からすると、本件明細書においては「薄肉プラスチック管」ないし「薄肉管」の意味内容は「低温低圧下の送気ダクトに用いる配管用パイプ」であるプラスチック管であると定義されていると解され、したがって高温高圧下のエンジンルーム内で用いられる被告製品は、いずれも「低温低圧下の送気ダクトに用いる配管用パイプ」に該当せず、したがって「薄肉」との要件を充足しない旨主張する。

確かに、本件明細書の考案の詳細な説明の項には、「換気装置や冷房装置等における低温低圧下の送気ダクトに用いる配管用パイプ」(本件公報一欄一二、一三行)、「自動車用冷房装置のダクト」(同二欄三、四行)、「自動車用冷房装置の通風ダクト」(同五欄一四行)との記載があることが認められ、被告主張のように、本件明細書においては、本件考案の実施例としては低温低圧下のダクトとして用いられることのみしか記載されていないことが認められる。

しかしながら、右は本件考案の実施例の記載にすぎないのであるから、これをもって本件考案の技術的範囲が直ちに限定されると解することは相当ではない。

他方、本件明細書には、考案の詳細な説明の項中、特に従来技術の問題点(本件公報一欄一二行から二欄二八行)に引き続き「この考案はこれらの問題点を解決する熱可塑性薄肉のプラスチック製ダクトを提供せんとする」(同欄二九行から三欄一行)の記載が存することが認められ、本件考案の特徴が、継手を使用せず一体成形され折曲自在な三次元形状のプラスチック管という、従前になかった形状のプラスチック管を提供するという点にあることは明らかであって、この点において、本件考案の対象技術分野が、高温高圧下のダクトを除く低温低圧下のダクトと限定されるべき理由はない。

また被告は、本件考案の出願経過に照らし、本件考案にいう「ダクト管路用薄肉プラスチック管」は、「低温低圧下の送気ダクト」に用いられるものを指していることは明らかであり、本件考案の対象を高温高圧下のエンジンルーム内の配管用パイプにまで拡張して解釈することは、禁反言の原則にも反し許されない旨主張する。

前掲乙第一号証の二、三、六、乙第二号証の一、二によれば、本件実用新案権の登録出願の過程において、原告は本件引用公報に記載された考案に基づいてきわめて容易に考案できるとして拒絶査定を受けたことを不服として審判の請求をし、昭和五六年五月八日付け審判理由補充書において、「本願考案は、換気装置や冷房装置等におけるダクト管路用プラスチック管、特に自動車用冷房装置のダクト管路用のプラスチック管に関するものであって、複雑形状を有する場合であっても安価な材料を用いて一体的に成形したダクト管路用のプラスチック管を提供することを目的とするものである。」(乙第二号証の二、三頁五行から一一行)と、主張したことが認められる。

しかしながら、右記載自体、換気装置や冷房装置「等」と表現されており換気装置や冷房装置に用途を限定しているものではないことは明白である上、同号証によれば、右審判理由補充書には、「薄肉プラスチック管」の意義との関係で用途に関する記載がされたことをうかがわせる記載はないことが認められる。

したがって、前記審判理由補充書中の記載を理由に、原告の主張が禁反言の原則に反するとの被告の主張は失当である。

4  構成要件Dについて

(一)  ロ号物件が三菱油化製「SPX」からなる熱可塑性樹脂を材料として成形されていることは当事者間に争いがなく、弁論の全趣旨によれば、ロ号物件はブロー成形によって製造されるもので、その成形の工程中におけるパリソンは、右樹脂からなるものであることが認められる。

したがって、ロ号物件が構成要件Dを充足するか否かは、三菱油化製「SPX」が「剛性」の樹脂に該当するか否かによることになる。

(二)  本件明細書には、「剛性」の意味を直接定義した記載はない。本件明細書の実用新案登録請求の範囲の記載のとおり、本件考案のプラスチック管は「三次元的に中心軸が変化する所定の形状を有している」ものであり、その意味は、前記三3のとおり、管路の中心軸が三次元的に折曲変形した所定の形状で、かつ、その途中で自在に折曲できるという意味であるから、その管が剛性であるとは、中心軸が三次元的に折曲した管路形状を保持できる程度に硬く、かつ、適切な肉厚の蛇腹部等の手段によって自在に折曲できる程度には弾性を有するものということができる。

本件明細書中の考案の詳細な説明の項には、本件考案の目的として、「本考案は剛性の薄肉プラスチック管に関するもので、その途中で折曲げが自由な硬質熱可塑性樹脂製のものを提供することを目的としている。」(前記二1認定のとおり)との記載、本件考案の従来技術に関して「我国ではコストの低いポリエチレン、ポリプロピレン等からなる硬質熱可塑性樹脂で薄肉管として成形することが多いが、この場合前述するように各種形状のエルボ等の継手を必要とするのみならず、複雑な形状部分における多くの継手部分で空気漏れが生じたり、取付作業の工数がかかる等の不都合があり、これらを防止しようとすればコスト的にも高くならざるを得ない等の欠点があった。」(本件公報一欄二一行から二九行)との記載、右記載に続いて、そのような従来技術の問題点を掲記した上、「この考案はこれらの問題点を解決する熱可塑製薄肉のプラスチック製ダクトを提供せんとするもので、」(同二欄末行から三欄二行)と本件考案の特徴が記載され、本件考案の効果として、「本考案は以上説明した如く構成されるので、既述のような価格の安い硬質熱可塑性プラスチック材によって各種の変化に富んだ、しかも取付個所の条件に応じた形状の剛性のダクトを廉価に且つ容易に得ることができ、」(同五欄九行から一三行)と記載されていることが認められる。

これらの記載に照らせば、本件考案にいう「剛性熱可塑性樹脂」とは、「硬質熱可塑性樹脂」と同義であり、従来技術に用いられていたポリエチレン、ポリプロピレン等からなる硬質熱可塑性樹脂がこれに該当するものということができる。

したがって本件考案における「剛性」又は「硬質」とは、中心軸が三次元的に折曲した管路形状を保持できる程度に硬く、かつ、適切な肉厚の蛇腹部等の手段によって自在に折曲できる程度にもろくないこと、例えば、「ポリエチレン、ポリプロピレン等」と同程度の硬度を有することを意味するものと解すべきである。

(三)  成立に争いのない甲第一〇号証、乙第一一号証の一、二によれば、三菱油化製「SPX」は、プロピレンを主原料とする特殊共重合軟質樹脂で、その柔軟性の指標となる曲げ弾性率は、ポリプロピレンよりも小さく、高密度ポリエチレンの内曲げ弾性率の小さいものと相当程度に重複し、低密度ポリエチレンの内曲げ弾性率の上限のものと一部重複する範囲である、二〇〇〇ないし五〇〇〇kg/cm2であることが認められる(なお、前掲甲第一〇号証、乙第一一号証の一、二の三菱油化製「SPX」のカタログ記載中の「PP」がポリプロピレンを、「PE」がポリエチレンを、「HD/PE」が高密度ポリエチレンを、「LD/PE」が低密度ポリエチレンを、「VULCANIZED RUBBER」が加硫ゴムを意味していることは、弁論の全趣旨により認められる。)。

そして、ロ号物件であることに当事者間に争いのない検甲第一号証の一ないし四によれば、ロ号物件は中心軸が三次元に折曲した管路形状を保持できる程度に硬く、かつ、蛇腹部で自在に折曲できる程度の弾性を有することが認められる。

したがって、三菱油化製「SPX」を材料とし、右のような性状を有するロ号物件は構成要件Dにいう「剛性」の熱可塑性樹脂に該当するものと認められる。

よって前記(一)に記載したところと併せ考えれば、ロ号物件は構成要件Dを充足する。

(四)  被告は、「SPX」は「軟質」であり、硬質熱可塑性樹脂ではないと主張する。

前掲甲第一〇号証、乙第一一号証の一、二によれば、三菱油化の「SPX」のカタログでは、「SPX」は、「Soft Polymer」の略であり、プロピレンを主原料とする特殊共重合軟質樹脂と表現され、その用途として「PPの軟質化、耐衝撃性改良分野」と記載されていることが認められるけれども、右の「軟質」という表現は「PP」、すなわちポリプロピレンとの対比において軟質であるという意味で使われているものであることは、カタログの右記載自体から明らかであり、被告の右主張には理由がない。

また、被告は、三菱油化製「SPX」は「半硬質」熱可塑性樹脂であって、本件考案の「硬質」熱可塑性樹脂には当たらない旨主張する。

成立について争いのない乙第一二号証の一ないし五によれば、大阪市立工業研究所プラスチック課編纂「実用プラスチック用語辞典」(一九八九年九月一〇日改訂第三版、株式会社プラスチック・エージ発行)には、硬質プラスチックとは、一定条件で試験を行い、引張り弾性率又は曲げ弾性率が一〇万psi(七〇〇〇kgf/cm2)以上の材料を硬質プラスチックといい、一万psiより小さい材料を軟質プラスチック、弾性率が一〇万psiと一万psiとの間にあるプラスチックを半硬質と呼んでいる旨の記載、右のような定義はASTMによるものである旨の記載があり、高密度ポリエチレンは、右の説明でいえば、半硬質プラスチック中で弾性率の大きいものから硬質プラスチック中で弾性率の小さいものに該当する範囲の弾性率を有し、低密度ポリエチレンは、右の説明でいえば、半硬質プラスチック中で弾性率の小さいものに該当する範囲の弾性率を有することが図示されていることが認められる。

しかし、本件明細書中には、実用新案登録請求の範囲にいう「剛性」及び考案の詳細な説明の項中の「硬質」が、ASTMの定めた基準に従っていることを示唆する記載はなく、前記のとおり、従来技術について、「ポリエチレン、ポリプロピレン等からなる硬質熱可塑性樹脂」として、ASTMの分類によれば半硬質プラスチックを含むポリエチレンを特段の限定を付することなく「硬質」としているのであるから、本件明細書中の「弾性」、「硬質」の語がASTMの分類によって記述されているものと解することはできない。被告の主張は失当である。

(五)  被告は、本件考案の出願の過程において、原告が、「半硬質」である低密度ポリエチレンが使用されている引用例の管を、本件考案にいう「硬質」でないと主張したものであるから、本件明細書にいう「硬質熱可塑性樹脂」の例であるポリエチレンは、「硬質」熱可塑性樹脂である高密度ポリエチレンに限定されたものであり、「半硬質」に分類される三菱油化製「SPX」をもって、本件考案にいう「硬質」と主張することは禁反言の原則に反する旨主張する。

前掲乙第一号証の二ないし四によれば、原告は、本件考案の出願の過程において、本件引用公報に記載された考案に基づいてきわめて容易に考案することができるとする拒絶理由通知を受けたのに対し、昭和五三年七月一七日付け意見書で「本願が硬質プラスチック材を使用し剛性であるのに対して、引例は軟質プラスチック材を使用し弾性的であること」において全く異なっている旨主張したこと、右引用にかかる公報には従来の「サイホンポンプの吸排液管」は「軟質合成樹脂材によって作製されるものであるが、」(同公報一欄二二、二三行)と記載されていることが認められる。

被告の主張は、右公報にいう「軟質合成樹脂」が前記ASTMの分類では半硬質に分類される低密度ポリエチレンであることを前提とするものであるが、右前提事実を認めるに足りる証拠はない。成立に争いのない乙第一四号証によれば、新輝合成株式会社が昭和四九年二月に発行したプラスチック製家庭用品のカタログに、ポリエチレン製の蛇腹付きノズルを有する灯油缶が記載されていることが認められるが、そのポリエチレンが高密度のポリエチレンを指すのか、低密度のポリエチレンを指すのかは右のカタログ自体からは明らかではないし、仮に右カタログの灯油缶のポリエチレンが低密度のポリエチレンであったとしても、昭和四九年当時の吸排液管ではない製品の資料にしかすぎないのであるから、これをもって引用された公報記載の考案が出願された昭和四一年当時、吸排液管に用いられていた「軟質合成樹脂材」が、低密度ポリエチレンであると推認することも困難である。

しかも、仮に本件引用公報にいう「軟質合成樹脂材」が低密度ポリエチレンであり、右意見書中の記載が本件考案にいう「剛性」ないし「硬質」を右引用例より高い硬度を要することを要件とすると限定したものとしても、そもそも前記したとおり、本件考案における「硬質」の語は、ASTMの基準に従って用いられたものではなく、しかも前掲甲第一〇号証、乙第一二号証の一、二によれば、本件明細書において「硬質熱可塑性樹脂」の例として記載されているポリエチレンは、それが高密度ポリエチレンであったしても曲げ弾性率はASTMの基準によれば「硬質」から「半硬質」に分類されると認められるのであるから(正確な数値は不明であるが、少なくとも曲げ弾性率の低い側の数値は、「SPX」の五〇〇〇kg/cm2を下回っていると認められ、これはASTMの基準にいう「半硬質」に分類されることは明らかである。)、原告が、意見書で、引用例との対比において主張したところが、被告の主張するように、構成要件DをASTMの分類基準にいう半硬質熱可塑性樹脂を除き、硬質熱可塑性樹脂に限定するものであったとは到底解することはできない。前掲甲第一〇号証、乙第一二号証の一、二によれば、三菱油化製「SPX」は、曲げ弾性率において一部重複するものの、概ね低密度ポリエチレンよりも曲げ弾性率が大であるのであるから、これをもって剛性熱可塑性樹脂であると判断することの妨げにはならないものというべきである。

出願経過に基づく被告の主張は、いずれの点からも理由がない。

5  構成要件Eについて

(一)  ロ号物件がロ号物件目録添付の図面及び写真のとおり、三次元的に折曲した管の部分が一体的に成形されていることは当事者間に争いがなく、右事実によれば、右の管の部分が同一のパリソンから一体的に構成されているものと認められる。

他方、ロ号物件はダクト中間にインサート部分が付されたものであることは当事者間に争いがなく、前掲検甲第一号証の一ないし四及び弁論の全趣旨によれば、右インサート部分は、ロ号物件目録添付図面の中では、上段の図中蛇腹部とB線との中間に円形の開口で図示され、中段の図中蛇腹部の右に管体から上部へ突出するように図示されている分岐のための突出開口部であり、右部分は、同一のパリソンから一体的に管本体を成形後、一体化させられたものと認められる。

(二)  しかしながら、右の各事実は、いずれもロ号物件が「同一のパリソンから一体的に構成されている」ものであるという判断を妨げるものではない。

本件明細書の考案の詳細な説明の項には、本件考案の従来技術の問題点として送気ダクトに用いる配管用パイプを「硬質熱可塑性樹脂で薄肉管として成形することが多いが、この場合前述するように各種形状のエルボ等の継手を必要とするのみならず、複雑な形状部分における多くの継手部分で空気漏れが生じたり、取付作業の工数がかかる等の不都合」(本件公報一欄二二行から二七行)があったものとされ、「上記問題の原因は主にプラスチック管の製造技術から制約されるもので」(同二欄一、二行)、「この考案はこれらの問題点を解決する熱可塑性薄肉のプラスチック製ダクトを提供せんとするもの」(同二欄二九行から三欄二行)とされており、更にその効果について、「本考案は以上説明した如く構成されるので、既述のような価格の安い硬質熱可塑性プラスチック材によって各種の変化に富んだ、しかも取付個所の条件に応じた形状の合成のダクトを廉価に且つ容易に得ることができ」る(同五欄九行から一三行)とされているのであるから、本件考案は、「三次元的に中心軸が変化する所定の管路形状を有しており且つ剛性熱可塑性樹脂からなる『同一のパリソンから一体的に構成された』管路用薄肉プラスチック管」との構成を採用することにより、従来、「各種形状のエルボ等の継手」を用いなくては成形できず、しかもそれゆえに継手部分で空気漏れが生じたり、取付作業の工数がかかる等の問題が生じていた複雑な形状、すなわち、三次元的に中心軸が変化する所定の管路形状を有する管路用薄肉プラスチック管について、それら問題点を解決することができるものと認められる。したがって、三次元的に中心軸が変化する所定の管路形状を有する管路用薄肉プラスチック管が、剛性熱可塑性樹脂からなる「同一のパリソンから一体的に構成され」ている限り、一個の製品としては、そのプラスチック管路に当該製品の使用目的に応じて他のインサート等が付加されても、右プラスチック管路部分に関しては「同一パリソンから一体的に構成され」ているとの要件を具備し、かつ、そのことによる効果を奏しているということができる。

このような観点から、ロ号物件を再度見ると、三次元的に折曲した管の部分が同一のパリソンから一体的に構成されているものであり、被告が構成要件Eを充足しない理由として指摘するインサート部分は、ダクト胴体部分の中間に付加的に一体化されたものにすぎないものと認められる。

そうすると、被告指摘のようなインサート部分を有するロ号物件も、構成要件Eを充足するというべきである。

6  ロ号物件は、右1ないし5のとおり構成要件AないしEを充足するから、本件考案の技術的範囲に属する。

五  公知技術に基づく主張について

被告は、本件考案は出願前公知であったもので、新規性を欠くという無効事由があるとして、そのことを理由に事実摘示「第四 被告の主張」記載のとおり主張する。しかし、以下に判断するとおり、被告主張の公知技術はいずれも本件考案の要件である「三次元的に中心軸が変化する所定の管路形状」を充足するものではないから、被告の主張は失当であって採用できない。

1  公知技術1について

成立に争いのない乙第四号証の一ないし三によれば、昭和五〇年三月に発行された日産自動車株式会社の「ダットサンブルーバード」のパーツカタログの418図に符号30としてダクトが図示されていることが認められるが、同図面に図示されているダクトは、中心軸が三次元的に折曲変形しているものとは認められないし、また蛇腹部等の折曲自在とする構成を有しないものであって、折り曲げ自由とは認められないから、前記検討した本件考案の構成要件Cの「三次元的に中心軸が変化する所定の管路形状」との要件を充足するものではない。

2  公知技術2について

成立に争いにない乙第五号証の一ないし三によれば、昭和四七年三月に発行された日産自動車株式会社の「ダットサンブルーバード」のパーツカタログの123図に符号5としてダクトが図示されていて、このダクトが蛇腹部を有することは認められるが、ダクト管自体は二次元的な折曲をしていて、三次元的に折曲変形しているものとは認められないから、前記した「三次元的に中心軸が変化する所定の管路形状」との要件を充足するものではない。

3  公知技術3について

前掲乙第八号証及び成立に争いのない乙第六号証の一ないし三並びに乙第八号証添付の写真16ないし19及び26の被写体であることに争いのない検乙第二号証によれば、車両番号六六茨あ九五六号のスバルサンバー(昭和四八年初度検査)の運転席前部計器盤の下部奥と計器盤の下方の送風器にそれぞれ接続されていた左右二本のダクトである、右側のもの(本件ダクト)及び左側のものは、平成二年七月以降いずれも、取り付けられた状態でも、取り外した状態でも、それ自体三次元的に折曲した形状を有し、かつ、蛇腹部により折り曲げが自由であることが認められる。

しかしながら、本件考案は前記検討してきたところから明らかように、硬質な材質を用いながら三次元的に折曲変形した形状を有し、かつ、蛇腹部等により折曲が自由な管を提供することにあるのであるから、成形時においては二次元的にしか折曲変形していないが取り付け時に外力を加えてたわめることによって、三次元的に折曲変形させ、これを係止することによってその形状を保持するというものは、本件考案の技術的範囲に含まれるものとはいえない。

したがって、本件ダクトが、取り付け状態ではなく製造直後の形状において三次元的に折曲変形していたものであるかどうかについて検討する必要がある。

原本の存在及び成立に争いのない甲第三四号証の一ないし六、弁論の全趣旨により真正に成立したものと認められる乙第七号証によれば、本件ダクト及びこれと同じものを製造するために富士重工業株式会社群馬工場が昭和四七年四月三日に作成した図面(乙第七号証)の正面図と側面図から同図面には本件ダクトが三次元的に折曲した形状であることが記載されているものと認められる。しかし、右甲第三四号証の一ないし六によって認められる、本件ダクトが取付けられたスバルサンバーの開発担当者であった池守国夫が、本件実用新案権の無効審判事件(特許庁平成二年審判第二三四九六号事件)において、同図は取付図である旨証言していること、右乙第七号証によって認められる、右図面には注として、「4 本部品ノ正面図形状ハ取付状態(図示)ニテ成型スルコト。

5  ジャバラバ取付状態ニスル時、1kg以下デ曲ガルコト、(側面図前後方向)」との記載があることによれば、本件ダクトは成形時には正面図(乙第七号証中央の図)に表れたように曲がっていたけれども側面図(乙第七号証の左側の図)のように下方が前方に曲がっておらず直線状で、三次元的に折曲した形状ではなかったものであって、前掲乙第八号証、検乙第二号証に表れた本件ダクトに見られる側面図の前後方向の曲がりは長期間その状態で自動車に取り付けられていたことから生じた一種の「くせ」と認められる。したがって成形時の本件ダクトは本件考案の技術的範囲に属するものということができないから、本件ダクト及び前掲乙第七号証をもって本件考案が出願前公知であったものとはいえない。

そしてこのことは、前掲乙第八号証、原本の存在及び成立に争いのない乙第一六号証に表われた、前記スバルサンバーに取り付けられていたもう一方のダクト(運転席左側のダクト)についても同様である。

被告は、本件ダクトが、その上端開口部において捩れ、傾いており、蛇腹部が真っ直ぐであるとしても、全体として三次元的に折曲変形している旨主張するが、前記した硬質な材質を用いながら三次元的に折曲変形した形状を有し、かつ、蛇腹部等により折曲が自由な管を提供するという本件考案の特徴に照らし、被告が指摘する、管が三次元的に折曲変形した形状を有するとはいえないような管の端部の微少な捩れ、傾き等の形状の変化があったとしてもそれをとらえて、本件考案が出願前に公知であったということはできない。

なお、前掲乙第八号証、検乙第二号証によれば、前記スバルサンバーから取外された後の本件ダクト及びもう一方のダクトは、長期間その状態で取付けられていたことから生じた「くせ」によるものとはいえ、三次元的に中心軸が変化する所定の管路形状を有しているものと認められるが、そのような形状にいつの時点で「くせ」がついたか、その形状がいつ公知になったか明らかでない以上、そのような形状が本件考案の出願前から公知であったものとは認められない。

したがって、公知技術3に基づく公知の主張も理由がないものといわなければならない。

六  損害について

1  平成二年一月から平成三年一一月一六日までの期間中に被告が製造、販売した口号物件の販売額は一二七〇万九九五二円の限度で当事者間に争いがなく、右金額を越える販売額を認定するに足りる証拠はない。

2  前記三ないし五のとおり、ロ号物件は本件考案の技術的範囲に属するから、被告がロ号物件を製造、販売したことは本件実用新案権を侵害したものであり、平成五年法律第二六号附則四条によって本件の実用新案権についてなお効力を有する右法律による改正前の実用新案法三〇条によって準用される特許法一〇三条により、被告の右侵害行為には過失があったものと推定される。

また、実用新案権者であった原告は、被告に対し、右改正前の実用新案法二九条二項により本件考案の実施に対し通常受けるべき金銭の額に相当する額の金銭を、自己が受けた損害の額としてその賠償を請求することができるところ、本件考案の実施に対し原告が通常受けるべき金銭の額は本件考案の技術内容及び弁論の全趣旨等を斟酌し、ロ号物件の販売額の三パーセントをもって相当と認められるから、前記販売額一二七〇万九九五二円の三パーセントである三八万一二九八円をもって、原告が被告のロ号物件の製造、販売行為により被った損害の額とみなされる。

七  結語

よって原告の請求は、ロ号物件の製造、販売による損害の賠償として金三八万一二九八円及びこれに対する不法行為の後である平成三年一一月一六日から支払済みに至るまで民法所定の年五分の割合よる遅延損害金を求める限度で理由があるからこれを認容し、その余の請求は理由がないからこれを棄却し、訴訟費用の負担につき民事訴訟法八九条、九二条本文を、仮執行宣言につき同法一九六条一項をそれぞれ適用して、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 西田美昭 裁判官 森崎英二 裁判官高部眞規子は差支えのため署名捺印することができない 裁判長裁判官 西田美昭)

〈19〉日本国特許庁(JP) 〈11〉実用新案出願公告

〈12〉実用新案公報(Y2) 昭60-27270

〈51〉Int.Cl.4F 16 L 9/12 識別記号 庁内整理番号 7181-3H 〈24〉〈44〉公告 昭和60年(1985)8月16日

〈54〉考案の名称 剛性の薄肉プラスチツク管

審判 昭56-6983 〈21〉実願 昭51-152758 〈65〉公開 昭53-69810

〈22〉出願 昭51(1976)11月16日 〈43〉昭53(1978)6月12日

〈72〉考案者 中川達彌 松戸市常盤平6丁目5番地

〈71〉出願人 エクセル株式会社 東京都墨田区押上1丁目19番3号

〈74〉代理人 弁理士 小橋一男 外1名

審判の合議体 審判長 松田大 審判官 奥村忠生 審判官 安田達

〈57〉実用新案登録請求の範囲

ダクト管路用薄肉プラスチツク管において、前記プラスチツク管は3次元的に中心軸が変化する所定の管路形状を有しており且つ剛性熱可塑性樹脂からなる同一のパリソンから一体的に構成された管路用薄肉プラスチツク管。

考案の詳細な説明

本考案は剛性の薄肉プラスチツク管に関するもので、特に立体的に折曲した形状のもので熱可遡性樹脂製のものを提供することを目的としている。

一般に換気装置や冷房装置等における低温低圧下の送気ダクトに用いる配管用パイプは、装置取付個所の条件が個別的に異るため従来は、できれば変形性(可撓性)に冨むゴム製のものが望まし、またそれに乏しい材料のものでは汎用性のあ各種形状の管継手を揃えて取付個所に応じた配管をするのが常である。

しかし、ゴム製のものはその機能及び取付作業面でも優れているが、製造コストが著しく高いめ我国ではコストの低いポリエチレン、ポリプピレン等からなる硬質熱可遡性樹脂で薄肉管とて成形することが多いが、この場合前述するよに各種形状のエルボ等の継手を必要とするのみらず、複雑な形状部分における多くの継手部分空気漏れが生じたり、取付作業の工数がかかるの不都合があり、これらを防止しようとすればスト的にも高くならざるを得ない等の欠点があた。

上記問題の原因は主にプラスチツク管の製造技術から制約されるもので、例えば多くの同型の複雑形状を有する本来多量生産品が好ましい自動車用冷房装置のダクトの場合でもこれを製造できないという問題もあつた。従来の直線以外の例えばエルポ管を作る場合について考えれば、第1図及び第2図に示すように上下に対応するL字形丸溝11a、11bを各刻設形成した金型12a、12b間に、上記L字形の高さ又は巾に対応する巾をもつた中空のチユーブ状に成型された可塑状材料(パリソン)13をノズル14から連続的に供給し、両金型12a、12bを押圧して合わせるとともに、L字溝11a、11bの一端から上下のパリソンによる膜間にエアを注入して、いわゆる吹込成形により溝面に沿つたエルポ15を形成していた。したがつて供給されたパリソン13はエルポ15に要するに部分以外はいわゆるバリ16として不要部分となり、これを切除しなければならなかつた。この点の材料の無駄や労力の損失、技術上の難点も無視できないが、何よりも先ず、この方法では平面的折曲した形状しかできず、立体的即ち、左右上下前後方向に曲折した形状を得ることは無理であつた。またエルポ等の一部に蛇腹を設けて折曲がり自在な形状を得ることも、バリ16を切除しなければならない関係で技術的にもコスト的にも困難で不可能である結果、従来は立体的に折曲変形し且つ取付時に折曲げできる管は存在しなかつた。

この考案はこれらの問題点を解決すろ熱可塑性肉のプラスチツク製ダクトを提供せんとするもで、以下図示する実施態様につき詳細に説明す。

第3図、第4図はこの考案のプラスチツク管の施態様をそれぞれ図示した正面図と側面図を示ており、第3図の場合は薄肉管17は前端開口を基準とすれば他端は右下部方向に斜めの位置あり、その間に折曲げ自在な蛇腹部17aが斜の立上り部として形成されている。また第4図場合は前後に立上り部を有しており、同図Aの面図においては両者がV字形に交叉した形状、同図Bの側面図では〈省略〉形に折曲がつており、後の立上り部と底辺部にそれぞれ折曲自在な蛇部17aが介設されている。

第5図は第3図に示す本考案の管17の成形にいる装置の1例を示す斜視図で、第6図A、Bその原理的な作動状態を示す平面図、第7図Bは該各平面図に対応する側面一部断面図でる。

図中1はポリエチレン、ポリプロピレン等の熱塑性材よりなるパリソン7を収容しているシリダー、2はその先端においてパリソン7をチユプ状にして可塑状で注出するノズルで、この例は後述する金型3に対して相対的に固定的であ 金型3は下型3aと上下3bとの2つの割金からなり、該両金型の合せ面にはそれぞれ相対る形状の丸溝4a、4bが刻設されている。金3の合わせ面は図示するように所望の溝形状のがり(即ち成形しようとするプラスチツク管の元的に変形している曲線)に合わせて前後、右、上下方向に曲線をなしているとともに、そ各面に上記所望形状のプラスチツク管成型用丸4a、4bが形成されている。該溝4a、4b先端側は金型3a、3bを合わせたときに閉塞るように行き止まりとなつているが、後方端後にパリソン内にエアを注入するためのエア注6a、6bが設けられている。

は下金型3aを前後左右水平移動自在に載置いる受台で、その上面にはスチールボール等なるフリーベアリング9が嵌入されている。は受台外周に固着されて下金型3aの水平移規制する枠である。また金型3には受台8上いて金型が前後左右に水平移動させられるよシリンダその他の機構による水平駆動装置が取付けられており、さらに受台8にもこれを上下方向に昇降駆動する装置が付設されている。(いずれの装置も図示しない。)

以上の如き装置による本考案の剛性のプラスチツク管の製法について説明すると、先ず第6図A及び第7図Aに示すようにノズル2の下に下型3aの溝4aが来るように配置し、次いでノズル2からのチユープ状のパリソン7を連続注出せしめるとともに、該ノズル2と溝4aの底部又はその中心位置が略一定の間隔を保ち得るように金型3を上下左右動させながら前方に水平移動させ、溝4a底部に沿つて、注出されたパリソンが収容されるように操作する。この際の金型3aの移動及び昇降は前述した各駆動装置によつて自動的に、あるいは手動的に操作されるが、これらの操作はいわゆる「ならい機構」を用いたりまたその他の機械的あるいは電気的に設定された経路をたどつても行われ得る。

上記溝4a内へのパリソン7の供給収容が終わると上型3bを下型3a上に合わせ、次いでエア注入口6からパリソン中空部へ一定圧のエアを注入する。このときパリソン7は切断によつて先端が袋状に閉塞されているので溝4a、4b内でふくらみ、溝の周面形状に沿つて一定厚のパイプに形成される(吹込成形)。これを金型自体により一定温度まで冷却することにより管が完成するので、その部分のみ切断して金型を再度分離させて開いて取出す。他方この作業をコンベア上等で連続的に行わしめるときはノズル2は次に流れて来た金型に対して上記の場合と同様の位置から次の作業を開始する。

また完成後のプラスチツク管の取付位置や、取付後の荷重等の都合により、管の肉厚に部分的な変化をもたせたい場合及び同じ肉厚で径に変化をもたせたい場合等、次のような方法によりかかる所望形状・構造のパイプを得ることができる。

即ち、その一つはパリソンの単位時間当りの供給量を変化させることであり、この方注はパリソンを注出するためのポンプの駆動速度を電気的、機械的に変化させることで可能である。その場合供給料が多ければ肉厚が厚くなり、あるいは部分的に大きい径で同一肉厚のものを得ることができる。その場合丸溝の径が部分的に拡大されていることが条件である。

2番目の方法は金型の溝上にある注出ノズルが相対的に位置変化(移動)している際に、当該移動速度に部分的な変化をもたせることにより、例えば遅くすればその部分の肉厚は厚くなるかあるいは同一肉厚で上記同様大きい径の部分を得ることができる。上記2つの方法は電気的又は機械的な設定より自動的に行うことも可能であり、両方法を結合して実施することもできる。

本考案は以上説明した如く構成されるので、既述のような価格の安い硬質熱可塑性プラスチツク材によつて各種の変化に冨んだ、しかも取付個所の条件に応じた形状の剛性のダクトを廉価に且つ容易に得ることができ、殊に大量に生産されなければならない自動車用冷房装置の通風ダクト等に使用すればその技術的、経済的効果は一層多大である。

図面の簡単な説明

第1図は従来のプラスチツク管の製造方注の1例を示す斜視図、第2図は同じくその断面図、第3図A、B、第4図A、Bはそれぞれこの考案のプラスチツク管の例を示す正面図と側面図、第5図は第3図に示す管の成形用装置の要部を示す斜視図、第6図A、Bは同じくその作業状態を示す平面図、第7図A、Bは第6図A、Bに各対応する作業状態を示す一部断面側面図である。

図中の符号は次の各部を示す。1:シリンダー、2:ノズル、3:金型、3a:下金型、3b:上金型、4:溝、4a:下金型溝、4a:蛇腹部、4b:上金型溝、6、6a、6b:エア注入口、7:パリソン、8:受台、9:フリーベアリング、10:枠、11、11a、11b:丸溝、12、12a、12b:金型、13:パリソン、14:ノズル、15:エルボ、16:バリ、17:プラスチツク管、17a:蛇腹部。

第1図

〈省略〉

第2図

〈省略〉

第3図

〈省略〉

第4図

〈省略〉

第5図

〈省略〉

第6図

〈省略〉

第7図

〈省略〉

1 日産自動車部品番号 一六五五四 七一L一五

自動車エンジンルーム内で使用されるダクト用プラスチック管であって、ポリプロピレンからなる熱可塑性樹脂を材料として形成され、別紙図面及びこれに添付した写真に示される形状を有し、その中心軸が三次元的に折曲変形しているもの。

イ号物件目録

中心軸(破線)

〈省略〉

A-A断面図

〈省略〉

B-B断面図

〈省略〉

C-C断面図

〈省略〉

D-D断面図

〈省略〉

外観形状

〈省略〉

〈省略〉

中心軸(破線)

〈省略〉

2 日産自動車部品番号 一六五八五 六〇U一二

自動車エンジンルーム内で使用されるレゾネータであって、ポリプロピレンからなる熱可塑性樹脂を材料として形成され、別紙図面及びこれに添付した写真に示される形状を有し、その中心軸が三次元的に折曲変形しているもの。

A-A断面図

〈省略〉

B-B断面図

〈省略〉

C-C断面図

〈省略〉

外観形状

〈省略〉

〈省略〉

中心軸(破線)

〈省略〉

3 日産自動車部品番号 一六五五四 六一U〇二

自動車エンジンルーム内で使用されるダクト用プラスチック管であって、ポリプロピレンからなる熱可塑性樹脂を材料として形成され、別紙図面及びこれに添付した写真に示される形状を有し、その中心軸が三次元的に折曲変形しているもの。

A-A断面図

〈省略〉

B-B断面図

〈省略〉

C-C断面図

〈省略〉

外観形状

〈省略〉

〈省略〉

中心軸(破線)

〈省略〉

4 日産自動車部品番号 一六五八五 八八G一〇

自動車エンジンルーム内で使用されるレゾネータであって、ポリプロピレンからなる熱可塑性樹脂を材料として形成され、別紙図面及びこれに添付した写真に示される形状を有し、その中心軸が三次元的に折曲変形しているもの。

A-A断面図

〈省略〉

B-B断面図

〈省略〉

C-C断面図

〈省略〉

D-D断面図

〈省略〉

外観形状

〈省略〉

〈省略〉

〈省略〉

5 いすゞ自動車部品番号 AL八 九四三三 二八〇 七一

自動車エンジンルーム内で使用されるダクト用プラスチック管であって、ポリプロピレンからなる熱可塑性樹脂を材料として形成され、別紙図面及びこれに添付した写真に示される形状を有し、その中心軸が三次元的に折曲変形しているもの。

中心軸(破線)

〈省略〉

A-A断面図

〈省略〉

B-B断面図

〈省略〉

C-C断面図

〈省略〉

外観形状

〈省略〉

〈省略〉

〈省略〉

中心軸(破線)

〈省略〉

6 日産自動車部品番号一六五八五 二六V〇〇

自動車エンジンルーム内で使用されるレゾネータであって、ポリプロピレンからなる熱可塑性樹脂を材料として形成され、別紙図面及びこれに添付した写真に示される形状を有し、その中心軸が三次元的に折曲変形しているもの。

A-A断面図

〈省略〉

B-B断面図

〈省略〉

C-C断面図

〈省略〉

D-D断面図

〈省略〉

外観形状

〈省略〉

〈省略〉

〈省略〉

ロ号物件目録

中心軸(破線)

〈省略〉

日産自動車部品番号 一六五五四 七〇N〇一

自動車エンジンルーム内で使用されるダクト用プラスチック管であって、三菱油化製「SPX」からなる熱可塑樹脂を材料として形成され、別紙図面及びこれに添付した写真に示される形状を有し、その中心軸が三次元的に折曲変形しているとともに、蛇腹部において折曲げが自在なもの。

A-A断面図

〈省略〉

B-B断面図

〈省略〉

C-C断面図

〈省略〉

外観形状

〈省略〉

〈省略〉

〈省略〉

実用新案公報

〈省略〉

〈省略〉

〈省略〉

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